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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第八章 天空都市
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第127話 都市陥落(1)

「最下層は五階層らしい。道中も魔物は多いだろうけど……どうしようか。魔物を相手する時間などないかもしれない」


「それならオレに任せてください。低級の魔物なら敵でもない」


 オレの魔力の性質上、魔素の塊である魔物は簡単に倒すことができる。ならばオレ達が気にするのは最下層の強力な魔物と、恐らくそいつと共にいるであろう何者か。……しかし、今気になっているのはそれでもなく。


「なんでついて来たんですか!? ジンデール先生!」


「何度も言わせるなと! 生徒の危険を見逃す教師があるか! 安心しろ、ランファ先生が外の生徒は守ってくれる!」


「……仕方ない。なら、これから話すことは口外禁止で」


「承知した」


 シューレットさんの口から語られたのは、ルシファーと歴史の破壊者(デスティニー)についてのこと。オレは知っているが、知らない人からしたら衝撃だろう。よもや法帝を遥かに超える力をもった者がいるなどと……。


「にわかには信じがたい……事実なのか?」


「えぇ、紛うことなき事実。そして、ここにはその影がありそうだと、そういうことなんでしょ?」


「はい、間違いないと思います」


 古代都市の底から溢れる嫌な魔力、これは歴史の破壊者(デスティニー)から感じたものと同じだ。しかもこの量と圧……考えたくはないが……。


「しかしそうならば、余計にお前だけを行かせるわけにもいかない」


「ありがたいですけど、シューレットさんもいますし、オレも強いですよ? そこそこは」


「ジンリューとの戦いは見てたさ。強くても、変わらない」


 鬼だなんだと言われる先生だが、彼はどこまでも先生だった。厳しいのは優しさの裏返し。それにしたって厳しいところはあるけれど。


「さて、そろそろ見えてきたね。準備はいいか?」


「はい!」


 辿り着いたのは最下層、都市を浮遊させる巨大魔石の前。そこにいたのは鎧を纏った騎士のような魔物と、老いた容姿の男。ただその魔力は、とても衰えたものとは思えない。


「見たところ、そいつが混沌彼岸騎士(カオス・リナイト)だな? それで、お前は?」


「おぉ、こいつぁ大物が来やしたね。剣帝けんおうというと、法帝でもなかなか強ぇ方でしょう?」


「私はそんなことを聞いたんじゃないがな」


「まぁまずは、力試しだ。行け、彼岸騎士リナイト


 男の指示で魔物は一歩、動き出した。長く大きな剣を抱えるその様は、まさに騎士。ただ所詮は魔物、七星級とは言っても、相手ではない。


「アレはオレが……」


「待て、あんなものに時間を割くつもりはない」

「『破剣ラグライア』!」


「……っ!」


「ほう……」


 一閃、シューレットさんの一撃が魔物を二つに斬り裂いた。洗練された刃、オレの剣術よりも圧倒的に磨きがかかっている。……が、


「お前は無傷か」


「ふふ、いやぁ、すいやせん。どうやら法帝というものを侮っていたようだ。アーサー=ベルベットを除けば大したこたぁねぇと思ってやしたがね」


 混沌彼岸騎士(カオス・リナイト)の鎧を真っ二つにした一撃も、あの男の皮膚を斬るには至らなかった。全容を把握できないほどの膨大な魔力で、ヤツは防御したのだ。


「せっかくだ。挨拶をしやしょう。あっしは歴史の破壊者(デスティニー)、“黒の剣”を与えられし二番目の騎士。番外・ベータ。ご存知ですかい?」


「番外……だとっ!?」


 二番、つまりアルファに次ぐ実力者! 五番のエプシロンとは格が違う。つまり、ヤツは……!


「先生、シューレットさん! ヤツには警戒だ! 恐らく、ベルベットさんよりも強い……!」


「……さて、どうでしょうな」


 少なくとも、魔力量はずっと多い。そしておよそベルベットさんと互角だったエプシロンよりは、確実に強い。オレ達で敵う相手なのか……。


「……シューレットさん、これは……」


「あぁ、想定外だよ。まさかこれほどの者が来てるとは……」


 身体が熱い。熱いのに、背筋は驚くほどに冷たい。額を、頬を伝う汗が止まらない。が、戦えない相手では……


「っ……! 先生!?」


 まさに臨戦態勢を取ろうとしたその瞬間、身体がフワリと持ち上げられた。攻撃ではない。むしろ保護だ。ジンデール先生が、オレを抱えて走り出した。


「コレはダメだ! シューレットさん!」


「あぁ、あなた達は逃げろ!!」


「ダメだ! 先生! オレ達も戦わないと……」


「いや、ここはシューレットさんに任せる! お前をここに置くわけには……」


「そうじゃない! アイツから逃げられるわけ……っ!?」


 ジンデール先生は『瞬速』の能力スキルを持つ。無限の加速が可能な彼は、一秒もあれば音を置き去りにし始める。それでも……。


「はっ……はっ……!」


「くそっ……助かった、グランデュース……」


 その速さをもってしても、ベータはオレ達の前に回り込んでいた。オレがなんとか蹴りをこの手で受け止めたから、“痛い”程度で済んだ。


「ほぅ、なかなかやるでねぇですか、グランデュースの」


「これでも歴史の破壊者(デスティニー)とは何回も戦ってきたからな……」


 腕が痺れて仕方がない。師匠のパワーほどではないが、それでも今のオレで戦えるものではないと、その一撃で理解した。


「すまない、2人とも。私が止めるべきだったのだが……」


「いえ、仕方ないですよ。あの速さでは……。しかし、能力スキルによるものではないですね」


「……なぜ分かる?」


「オレの魔眼のおかげです」


 能力スキルを発動する場合、それなりの魔力の揺れが生じる。それをオレの魔眼は捉えられるのだが……つまり、今の動きはただの身体強化によるもの……。


「なるほど、魔眼、ですか。そういやぁそんなことをアルファさんが言ってやしたか。……金色の水晶を継承したのだとか……」


「へへ……どんな力でしょうかね……」


 ベータの一挙手一投足が死因になりうる状況。だが、魔眼による未来視にも近い直感があれば即死することは……?


「何をする気だ?」


「いやなに。役を果たすだけでござんすよ。アンタらに構う必要もねぇだろう」


「っ……マズい!」


 ベータが()()に手をかけようとした瞬間、オレ達は一斉に飛びかかった。それはあってはならない。いや、予想はしていたが……!


「『天翔てんとの』……」


「『剣帝(ソード・マスター)』……」


「『瞬身しゅんしん』……」


「ふふ、遅ぇな、アンタらは」


 瞬きする時間もない速さ。それでもベータは、それより速かった。不利な状況で、オレ達は格上と戦わされていたのだ。


 天空都市は、古代都市の底に埋められた巨大魔石により浮遊している。それだけのエネルギーを、家屋よりもずっと大きいその魔石一つで。


 その日、魔石は砕かれ、天空都市は自由落下を始めた。

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