第125話 リア・ルミナス(2)
雲のように真っ白な道、噴水、庭、家に……そして聳える巨大な城。天国と言うのだろうか、まるでこの世ではないような、幻想的な世界だった。
「はぁ〜……世の中は広いもんだな」
空気が薄いのが気になるが、ここは上空何メートルほどだろうか。こんなところに住まう種族とは……。
(羨ましくもあるな。セリア、こういうのは昔からあったのか?)
(どうだろ。少なくとも私の時代には聞かなかったな。そもそも翼人っていう種族も……)
知らないのか。10,000年で新しい種族は生まれるものか? その時代は地上と交流していなかっただけなのかも知れないが……考えても分からないか。
「おぉ、よくぞいらっしゃいました。魔法学園の皆さま。そして……シューレット様も」
そう言って現れたのは高身長の……見るからに高貴そうな男。翼人だろうな。容姿は人間に近しいが、魔力は人間のそれではない。……おっと、思えばオレは、完全に魔力の質を見分けられるようになってるな。魔眼のおかげだろうか。
「お初にお目にかかる。私はシリアン=シューレット。あなたがギリテン殿か?」
「えぇ、まずは私達の王に会っていただきたく……ミルアルト様は……」
「あぁ、オレがミルアルトです。どうぞよろしく」
「おぉ、あなたが。よろしくお願いします」
クラスの皆んなとは別れ、オレとシューレットさんはギリテンさんについて行った。どこまでも白い街並み、けれどどこか影も目立って見える。白と黒の……面白い雰囲気だな。
「天空都市はどうして浮いてるんです? 浮遊魔法は珍しくもないでしょうが……これほどの規模となると、簡単なものではないでしょう」
「ふふ、えぇ。確かに魔法とは違います。その昔、『空中散遊』という能力を保持していた方がいたようです。その能力を巨大な魔石に刻み、今もなお浮遊しているというわけです」
「能力を? それは無理な話でしょ。魔法ですら魔石に刻むのは至難だというのに……能力など聞いたことがない。仮に可能だとして、そのエネルギー源は魔石だけでは足りないでしょ」
「能力の魔力回路をコピーしているようです。ご存知の通り、能力は魔法よりも魔力消費が少ないですから、魔素を取り入れることで回しているのだとか」
……いや、それこそ無理な話だ。そもそも魔力回路など完璧に認知できるものでなければ、魔素、つまり天然に存在する魔力というものは操ることはまず不可能、知覚するだけですら難しいというのに……。
あぁ、不可能と割り切るのもやめた方がいいな。思えばオレは、そんなことができそうな人を知っている。
「詳しいことは、どうぞ国王にお聞きになってください。私より多くのことを知っていることでしょう」
「あぁ、ありがとうございます」
気づけば到着したのは、巨大な門……いや、扉か。王室に続くその向こうには、大きな翼人の魔力を感じる。階級で言えば七星級といったところか。
オレはシューレットさんに促されて扉を進んだ。堂々と正面に構えるのは、翼人の……天空都市の王と名乗るだけある威圧感の男だった。
「初めまして、私はリア・ルミナス。代々翼人の王を継承している、ルミナス家の者だ」
「“剣帝”シリアン=シューレットです」
「オレ……あぁ、私はグランデュース=ミルアルトです」
「ふふ、口調など気にするな。今は正式な場でもない」
……ならもう少し崩させてもらうか。案外、堅そうな方じゃなくて良かった。……良かったのかな?
「では、オレを呼んだ理由を聞いても?」
「あぁ、えーっと……アリス様のご意向でね。あの方の願いを聞かないわけにもいかないだろう」
「あぁ……師匠の」
その一言で納得だ。ということは、天空都市を生み出したのは師匠なのだろうな。その王とは今も交流がつづいていると。恐らく、天空都市の始まりは神話の時代なのだろう。
「しかしまぁ、それだけというわけでもない。グランデュース家とは縁も深い。だからあなたとも話したかったのだ、シューレット殿」
「なるほど、確かにシリアン家はグランデュースの家系ですからね」
「……えっ、そうなんですか?」
「知らなかったのかい?」
初耳だ。特に何の関係もない家だとばかり。確かに互いに剣を使う家ではあるが……へぇ、そう。じゃあカミュールとは遠い親戚だったりするわけだ。
「古代都市とは、古の時代、禁断の森と呼ばれる地に存在した遺跡のこと。かつての大魔王・ネフィル=エスト様がそれを空に運び、我々は古代都市の上に天空都市を築いた。それがここです」
「へぇ……」
「我々はエスト様に恩がある。あなた方、グランデュース家もそうでしょう?」
「あ! 禁断の森ってことはさ……」
「急に出てくるなって!」
どうしてこうも、セリアは突然に実体化したがるのか。機密の存在だと言うのに……。
「あなた達、吸血鬼の末裔よね? ウラルスの子孫かしら?」
「えぇ、ウラルス・ルミナスは私の祖先。それを知っているということは、あなたは……」
「えぇ、ネフィル=セルセリア。ご存知かな?」
「もちろんですよ」
はぁ……名乗っちゃうよな。そりゃそうだよな。……まぁいっか。もうどうでも。




