第122話 争奪戦(2)
「くッ……!」
「そら、もっと張り切れ!」
泡の猛攻を身体を捩りながら躱した。斬ろうとしてもなかなか刃を振れない。オレの魔力でジンリューの攻撃を一部掻き消そうとも、やはり圧倒的な質量には対抗しづらい。
まともに打ち合えば押されるのはオレ、ならば鋭さで勝負するしかないか……。
「『枯山水』!」
「熱ッ……!」
セリアの炎を全て刀身に……内側に押さえ込んだ。破裂しそうな魔力も熱量も、刀を振る力を底上げする。
「はっ……はっ……!」
「はぁ……!」
「『泡沫転生』!」
「っ……なに……!? 亀裂……!?」
泡に触れたところから、ステージに亀裂が広がった。いや、それだけじゃない。空間、炎、ましてやオレの魔力にまで……。身体強化を、天現融合を保つことさえ難しい。
「くッ……これは……」
「昇華、ってのを知ってるか?」
大きく跳ね上がり、距離を取った。昇華、つまり能力の本質に至ったと……考えれば分かったか。法帝の最低条件だと、セリアが言っていた。
異様に硬い泡の波、石粒の嵐の中にいるような……くそっ。刀を振っても止められねぇ。届くなんてこともねぇ。
「はっ……悲しいな。オレはまだその境地じゃねぇっとのに……」
「あ、そうか。……なら法帝の座を譲るのは難しいかな」
痛っ……? そうか、オレの身体も例外じゃない。腕にも顔にも亀裂が入っている。……時間がないか? 参ったな。
「ふぅー……」
刀を低く構え、魔力を高速で循環させる。セリアの炎はそんじょそこらの炎魔法よりも火力が高い。ゆえに、術者であっても制御を誤れば火傷を負う。この結界は自傷は補えない……わけだが。
「ははっ、おいおい。マジか……?」
「……マジだよ」
熱い……痛い。が、これでいい。どうせ昇華したジンリューの前では天現融合もすぐに解除されてしまう。ならば、全ての力を今ここで……!
「『天翔』……」
反属性の魔力を白天の要領で圧縮すれば、他者の魔力など介入する余地はない。それを刃にすれば……当然……。
「『灰燼』!」
「なるっ……ほどっ! これは……!」
ジンリューの苦悶の表情も、今は気にする余裕がない。ただこの熱い刃を、魔力の刃を、振り下ろすだけ。オレ能力『殲滅の騎士』、魔力も魔法も斬る力……。そのおかげで止めることなど誰にもできない。
「うぉおオオ!」
「くっ……ぐぁ……!」
泡の触れたものを無に帰す『空間支配』の力……それによって身体が削られていく痛みを感じた。けれどそんなもので止まるオレでもない。刀を振れば目の前にあるのはただの土煙……さて……。
「ははっ……死んどけよ……人として……」
「いやいや……危なかったよ。俺の泡がお前の攻撃を逸らしてなかったらと思うと……」
結界内にジンリューの姿がある、今の一撃で沈められなかったのか。ふぅ……いかんな、力が、セリアの魂が離れていくのが分かる。
ただ向こうも軽傷ではない。肩から腰にかけて袈裟斬りにされたその深い傷が……そう、あと一回だ。
「ふ……っ!」
「まだそんなっ……!」
残りわずか、この魔力を放出すれば……これが結界の内側でなかったら死に直結し得るほどの……。これで勝てなければ潔く負けを認めざるをえない。
「がはっ……!」
「何をする気……」
身体を削られ、破壊されていく。それすらも意に介さず、再び指先に白天を生成した。そこにさらにセリアの炎属性の魔力も加え、ただこの一撃のために……
「くっ……『火剣矢』!」
「ッ……!!」
グランデュースの……刃の魔力を懐から叩き込んだ。一直線に、確かに胸を貫き、身体を焼いた……はずだ。もはやオレの身体は視界さえも失われているが、魔眼で見たジンリューの魔力を確かに貫いていた。
「はっ……はっ……。……あれ?」
結界の外側か……? 火傷の熱だけはまだ残っているが……そうか、死んじまったのか。となると、まぁオレの負けか……。
「はっ……ははっ! いや、まさか……」
「ん? ……ん?」
……結界を弾き出されたのはオレだけじゃないようだ。オレの『火剣矢』は、どうやら有効打に……致命傷になったようだ。
2人とも場外に、勝敗はどうなったのか……オレの死にかけの魔眼が捉えたのはほとんど同時だったが……さて。
上体を起こして呼吸を整えた。試合が終わっても息が上がっているのはやはり自傷の……火傷のせいか。筋肉痛がするような……しないような……。
「はぁ……はぁ……おい! ルーシュ! 今の試合、どっちが勝ちだ!?」
「うーん……私個人としてはミラって言いたいところだけど……」
流石に肩入れはしちゃくれないか。いや、この場でそんなことをしてほしいとも思ってはいないんだけども。
「ギリギリ、ジンリューの勝ちかな。最後の一撃、アレを出し切って倒れたミラと、受けた上で倒れたジンリューだったから」
「そうか……どうだ? 異論は?」
「はぁ……はぁ……いや、ねぇよ。オレも負けたと思ったからな」
やけに沸き立つ観客席も、今は少し無視しようか。顔が痛い、焼けたから当然か。……楽しかったな。法帝に……八星級に勝つにはもう少し必要か。




