第120話 新たな法帝(2)
「はぁ〜! 久しぶりだなぁ!」
この大きな校舎を見上げるのも、実に2ヶ月ぶりのことだった。うん、久しぶりと言うにはちょっと短いよ。それでもこの間、ずっとプリセリドに行ってたわけで、それを経て見る学舎はどこか感慨深いものがある。
「さて……」
まずは校長に会いに行くかな。セリアもそこにいるだろうし。もっとも、彼女の方はオレが帰ったことに気づいているだろうが。
「1年特等クラス、グランデュース=ミルアルトです。校長先生、いらっしゃいますか?」
「おぉ! 帰ってきたか、ミルアルト君! 遠慮せず、入りたまえ」
……なんか、ちょっとテンション高いか? 記憶だとそんな仲ではなかったと思うが……まぁ別に変でもないか。
「お久しぶりです、校長先生。セリアも……」
「お帰り、ミラ! やっと私も開放されるよ……!」
「ははっ、すみませんね、セルセリア様。ただ我々は助かりましたよ」
聞いたところによると、歴史的資料の確認の他にも歴史の破壊者の魔力の残滓も追ってたのだとか。法帝達に引っ張りだこだったんだろうな。あとでスイーツでも食べさせてあげようか。
「積もる話もあるんだが……少し歴史の破壊者について話しておきたいことがあってね……」
「何かあったんですか?」
「いや、この2ヶ月、驚くほどに動きがなくてな。そうではなく、これを見てくれ」
「ん……?」
誰かの資料……あぁ、No.6のものか。イスダン迷宮で戦った……アイツのだな。魔力の解析でも終わったのか……? なんだ、これは……?
「リオ=ディーズレッド、20歳。去年の卒業生だよ。彼の魔力と細胞の組成が、君の殺したNo.6のものと90%以上合致した」
「なっ……えっ……?」
人間……ということか? いや、アレは人工生命体だって話だ。いや、しかし……それでも生きた生命ではあるが……だけど……。
「あ、いや、安心しなさい。ディーズレッド君は生きているし、歴史の破壊者とも関わりはないようだ。つまり、彼の細胞か何かを採取して、それを元にクローンか何かを作ったのだろう」
……なるほど? ただこの写真はあまり似てないな。面影は確かにあるが……クローンと言われると違和感がある。恐らく、ルシファーが何かしらの力でクローンを作る際に別の情報が入り込んでいるのだろう。
「まぁ、現状分かっていることは少ないから、また追って連絡させてくれ。君もお疲れだろう?」
「ええ、まぁ。……あ、そうだ。エプシロンのことについて、ご存知ですか?」
「あぁ、華陽に出たという歴史の破壊者の幹部だろう? 五番目の騎士だっけか。ベルドットに匹敵する戦力がそういくつも存在してもらっては……」
「死にました、彼。2ヶ月前に」
「……なんて?」
困惑一色、まぁそうなるわな。あの景色を直接見たオレでさえ、そう簡単に受け入れられるものでもなかった。ただそうだな……師匠の立場上、オレはなんと言ったものか……。
「プリセリドの方に現れて、師匠が倒したんです。ただあの人、今の時代にはさほど干渉したくなさそうなので……」
「あぁ、ベルドットの師匠だね。怪物の師もまた怪物か。……分かった。今はとりあえずこれだけにしてくれ。腹一杯だ」
「分かりました」
じゃあもうここにいる理由もないわけだ。セリアもいつの間にか幽体化しているようだし、とっととルーシュに会いに行こう。
「そうだ。しばらくぶりに学園に帰って、君は何をするつもりだ?」
「……そうですね。まずは奪ってこようと思います。てっぺん」
「はっはっ! それはつまり、ジンリュー君を引き摺り下ろすというわけだね!? 良いじゃないか、随分な自信だ!」
校長室の重い扉を背後に、今度は生徒会室に足を運んだ。正直、校長先生はさほど大きな存在に見えなかった。強い、強いが、今のオレなら、たぶん届かない相手でもない。……これが自惚れでなければいいが。
「久しぶり! グランデュース=ミルアルト、帰還しました!」
「おっ」
「ミラ! お帰り! 遅かったじゃん!」
「うおっ!」
馬車のような力で飛び込んでくるルーシュを受け止めながら、視界は全体に広げた。久しぶりの雰囲気だな。軽く、そして賑わっている。まったく、今までどれほど異常な空間にいたのか叩きつけられてしまうな。
「めちゃめちゃ魔力増えてるな!」
「へへ、そうでしょ? ユリハ様が鍛えてくださってね、そりゃもう恐ろしい師匠だったよ。あとでいっぱいお話してあげる」
「そっか、ありがとう。でも今は……」
堂々と座っている3つ上の青年。学年最強の男。校長を除けば彼を凌ぐ者などいなかろうが……。
「久しいな、ジンリュー。胸を貸してくれ。アンタに争奪戦を申し込む」
「ははっ、急だな。ただまぁ構わんよ。なんならそうだな……俺に勝ったら序列のみならず、法帝の座も譲ってやろう」
「……え?」




