第119話 新たな法帝(1)
1,500回、それはこの2ヶ月で師匠と勝負した回数だ。端数は分からないが……1日に30回以上、我ながら狂っているとは思うよ。オレってそんなに根性があったかな、なんて。
そしてオレの剣が彼に届いた回数。……あぁ、言わなくても分かるだろう。ただの1度でも届いてくれたのなら、こうも数えちゃいないさ。こんなんじゃ、オレがどれだけ強くなったのかさえ分かりゃしない。
「“叢雲剣”……!」
白天を纏った剣。師匠の……本物の白天を見てからというもの、その精度は確かに向上している……はずだ。空気の焼ける音も、削れる音も聞こえる。が……。
「アンタ……マジに化け物かよ……!」
「余裕だな、もうちょっと押していこうか」
「ぐッ……」
重い……。流れは感じない……つまり、相変わらず強化魔法も何も使っていないただの蹴り。それでもオレの強化した身体……神聖力を使っていてもまるで歯が立たない。
「はっ……はっ……『天翔』……」
これが最後だ。魔力も何も、この一振りに全てを乗せるしかない。
バカだとは思うが、これがオレの全力だ。全力の一撃ならば……あるいは。
「『暴風』!」
「ほう……!」
オレの八雲が、師匠の刀と交差した。分解しろ……分解しろ……! 師匠の力を削って……そこに届け……ッ!
全体重を、まさに全力を乗せている。なのにちっとも押せやしない……いや、少しだ。今まさに、少しだけ押している。
「うぉおお!」
「ふっ……強くなったな」
「ッ……!?」
ずっと遠いところに……10メートル以上は離れたところに師匠の姿があった。吹き……飛ばされたのか? 何が……何をされた?
燃え盛る師匠の身体……それと刀。それだけではない。空中に浮かぶ無数の炎の刃。なんだ、アレは……。まさかアレが……。
「ははっ、参ったな……それが、アンタの能力っすか?」
「ん? まぁ……そうだね。能力の一部だ」
ってことは、師匠の本気をほんの少しだけ、引き出すことができたのかな。そう思うとオレはだいぶ成長できたんだと、そう言ってもいいだろう。だって初めは……そうだよ。師匠の前に立つことすらできなかったんだから。……っと。
「今日の修行は終わりですか?」
「もちろんだ。君はそろそろ学園に戻らなければならんだろう? いつまでもここにいてられんだろ」
楽園の外側、澱んだ空は久しぶりに見る気がする。いや、昨日も一昨日も見ちゃいるのだが、この一戦がいやに長く感じたから。
「ミラ、君に渡しておくものがある」
「ん? わっ……!」
師匠が放り投げたのは……細剣? 特別な力は感じない……いや。どこか炎の熱を感じるな。魔力の伝導性も極めて高い……一般に宝剣と呼べるほどの代物だ。
「へぇ……これ、師匠の剣ですか? この炎の熱、師匠の炎と似てますよね?」
「いや、私のかつての仲間のものだ」
「えっ! そ、そんな大切なもの、貰えませんよ!」
「いや、君が貰いなさい。セリア……君の守護者にでも構わない。八雲よりもよっぽど良いものだし、オーディランよりも扱いやすいはずだ」
半ば強引に手渡されたその剣を、もはや返すことはできなかった。八雲を手放すつもりもないが、なるほど、オーディラン……名剣か。確かセリアの使ってる剣がそれだったな。
……ん? なんでそれを知ってるのか……というのはまぁ無視をしよう。師匠のことだもんな。うん。それくらいは知っててもおかしくない。
ただ圧倒的におかしい点がある。師匠の炎と、似たような力が馴染んだ宝剣。それは仲間の剣であって、そんな大切なものをオレに……オレとセリアに託す。で、その炎なんだが……。
「し、師匠ってもしかして……」
いや、あり得ない。あり得る話ではない。けれど、あまりにも合点が多い。10,000年だぞ……? もし、もしもそうだったとしたら……。
「変なことを言ってないで、早く出発しなさい。疲労はもう取れてるだろ」
「っ!? なッ……あ、い……行ってきます!」
突きつけられた時計のせいで、オレの疑問は吹き飛んだ。マズい、マズい。ただでさえ学園を長期欠席しているというのに、登校日に遅れたとなれば何を言われるか……。先生はともかく、ルーシュやジンリューがうるさくなりかねない。
「師匠! ありがとうございました!」
「あぁ、気をつけろよ。君の道はきっと……険しいだろうからな」
深々と下げた頭を上げ、オレは山を駆け降りた。ははっ……軽い軽い。修行の成果を感じるのは、案外こんなときなんだろうな。
聖都に着いたらルーシュに会って……セリアとも久しぶりに会うな。……あ、そうだそうだ。せっかくこれだけしごかれたんだ。序列一位を狙いに行こうか。




