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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第七章 英雄の街
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第114話 魔力(3)

「私はここから一歩も動かない。どんな方法を使ってもいいから、私をここから動かしてみなさい。“天現融合”だっけ? アレは使ってはいけないよ。私が伸ばしたいのは君自身の力だからね」


 天現融合は使ってはならない。それは納得できる。最終的に頼れるのは自分自身の力なわけだから伸ばすべきはそこだろうし、そもそもオレの力を高めなければ意味がない。しかし……


「……それってあんまり実戦とは言えないのでは? オレは攻撃されることにそれほど警戒しなくていいということでしょう?」


「それはどうだろうね。やろうと思えばどれだけ離れていようと攻撃するのは簡単だ。たとえ触れていなくとも叩くことはできるし斬ることもできる。少なくとも私と君ほどの力の差があればね」


「……師匠は意地悪ですね」


 オレは八雲を抜いて戦闘体勢を取った。考えなしに突っ込んだところで何もできずに終わるだろう。


 だが策を講じたところで師匠が何をするのか分からない以上、最初はなす術がないだろう。だからとりあえずは攻めるしかないが……地面を崩すか直接斬りかかるか……


 まぁまずは斬るか。オレの能力なら魔法や能力スキルの類なら効果を軽減するか無効化ができる。そう思ってオレは師匠に斬りかかろうとした。


 すると師匠はどこからか椅子を取り出してそれに座った。


「確かに意地悪だったね。悪かったよ。動かないとは言ったが、当分は座って待たせてもらうよ」


「ぐッ……ぬぬ……!」


 何か分からない見えない力にオレは押し潰され、立つことすらできなくなった。どれほど腕に、脚に力を込めようともその大きな力に逆らうことはできず、まるで広い大地に抱きついているようだった。


 重力とは少し違う。気圧でもない。念力か……? そんな魔法は聞いたことがないが……能力スキルか……?


 いや、師匠のことだ。誰も知らない魔法を使っていても不思議ではない。


「くッ……! ぬぁああ!」


「頑張れよ。君が動けるようになるまで私は暇で仕方がない」


 身体強化の魔法を施してもまるで歯が立たない。オレの魔力でも弾くことができない。


 ……この力は魔力によるものじゃないのか? あるいは力をある程度分解した上でこれほどまでに強力なのか。


 オレは額から汗を垂らしながらなんとか立ち上がろうと奮闘した。


「ハァ……ハァ……!」


「そろそろ魔力が切れたかな。今日はもう終わりにしようか」


 何時間もオレは力を込め続けたが、結局その日は胸を地面から離すことはできなかった。これほどまでに遠いのか……。世界最強は……これほどまでに大きいのか。


 触れることすらされなかった。“赤子を相手にする”とすら言えないほどの力の差があった。


 筋肉痛でほとんど動けなかったためにオレは師匠に抱えられて戻った。


 それと同時にある程度治癒してもらえたので夕食を食べることはできたが、とてもじゃないが自由に動くことはできなかった。スプーンを口に運ぶ途中でカタカタと震えていたのがその証拠だ。


「……ミラ、そういえば君は力の先に何を望んでいるんだ?」


「そういうのを聞かれるのは一番最初だと思ってましたよ」


 師匠はその辺りにはあんまり興味がなかったのか……。オレはゆっくりとスープを飲みながら話し始めた。


「……目指してるものは二つあります。一つは人探しです。昔助けてもらった人に会いたくて……有名になればオレの声も届くんじゃないかなって」


「もう一つは?」


「……難しい話ではありますが、いつか戦争のない世界にしたいなって思うんです。オレの幼馴染は戦争孤児で、まぁオレが直接何かあったことはないんですけど。……やっぱり大切な人がした辛い思いはどこかで断ち切りたいので……」


「なるほどね……」


 師匠は相変わらず酒を飲みながら話を聞いていた。少しの間、静寂が流れた。


 師匠はオレの言葉をしっかり考えてくれているらしい。そして空を見つめていたかと思えばオレに話しかけた。


「……正直言って人が生きている限りは争いは無くならないよ。こればっかりは仕方がないんだ。たとえ現状に満足していても、いずれ満足できなくなる。人とはそういうものなのだよ」


「……例えば多少強引な方法を取ったとして、それでも不可能でしょうか?」


「そういうことなら不可能ではない。ただ戦争ではない何かが新しく生まれる。条約と似たようなものさ。何かを滅ぼせば別の何かが誕生する。それが世界の真理だよ」


 師匠は達観した目つきをしていた。師匠も戦争を止めようと、争いをやめさせようと努力したことがあったのだろうか。


 ……少なくとも何か行動を起こしていなければこんな言葉は出ないか。


「……それでもオレは諦めたくありません。せめて目の前のものだけでも……無茶ですかね……」


「いや、あくまで私にはできなかったというだけだ。もしかしたら君ならなんとかできるかもしれない。若者の可能性は無限だからね」


 師匠は優しくそう言ってくれた。師匠はよく言っている。


 “綺麗事じゃ世の中は回らない”


 昔はどれだけ綺麗事を語っていたのか、どれだけそれを実現するために動いていたのか。……だからこその言葉だ。


 そんな師匠が“できるかもしれない”と言うのだ。オレはまだ諦める必要はない。

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