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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第七章 英雄の街
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第113話 魔力(2)

 オレは半日ほど常に座っていた。最初は不思議な感覚だけだったが、魔力が100回ほど全身を巡ったときからだろうか、骨と筋肉が引き剥がされるような激痛に見舞われた。


 異様に痛いだけで傷にはならないからと師匠に無理やり押さえられていたけれど、痛いだけと言えるような痛みではなかった。


 けれど元より、強さを得るのは楽ではないだろうと覚悟はしていた。だからこそ、全身からダラダラと汗を流しながらもなんとか耐え続けた。


「見直したよ、ミラ。痛かったろうに、途中からは悲鳴の一つも上げなかったではないか」


「……上げられなかったんですよ。明日もアレをやるんですか?」


「もちろんさ。ただアレはマッサージみたいなものだからね。全ての魔力回路が活性化させられればさほど痛むものでもない」


「そうだといいのですが……」


 今日の修行を終えたとき、空はすっかり暗くなっていた。森の夜はまさに暗闇だと聞くことはあったが、想像以上に真っ暗だった。


 たった一メートル先も目視できないほどの暗がりで、師匠の出現させた灯火がなければ遭難していただろう。


 師匠の家に戻ってからは再び彼が料理をしてくれた。本当はオレがやりたかったけれど、オレはそれほど料理が上手ではないし、何より師匠の飯は料理屋をやっているだけあって美味かった。


「ご老体に酒は毒なのでは?」


「酒に殺されるような私ではないさ」


 師匠は夕食を食べながらグラスに注いだ酒を流し込むように飲んでいた。なんでも酒は万病に効く薬だとかなんとか言っているが……まぁ本人がいいと言うならいいか。


「……そういえば師匠はご家族とかはいないんですか?」


 返ってくる答えの予想はついていたけれど、オレは恐る恐る質問した。師匠は答えたくなかったら答えないだろう。だからオレは気になることは質問しようと考えていた。


「家族か……。親はいなかったが……私を育ててくれた爺さんは若い頃に死んで……姉さんが死んだのは割と最近だったかな。今生きているのは娘が一人だね。血縁上は姪だけど……まぁ娘だね。ただあの子も大きくなったから、会う機会は少ないけどね」


「娘さんがいるんですか」


「若い頃は妻もいたんだが私が殺してしまってね。……あぁ、いや、彼女の名誉のために言っておくけど、別に私が直接の原因というわけではない」


「……」


 話題を間違えたな。師匠も昔のことだからか嫌悪しているようではないけれど流石に居心地が悪い。別の話を振るか。


「ご友人は?」


「それもほとんど死んでしまったよ。最も親しい友も……去年だったかな。まぁ……一応まだ生きている友もいるがね」


「……寂しくはないのですか?」


「寂しくないと言えば嘘になるね。だが、命というのは老い死にゆくからこそ儚く美しいものだ。仮にいつまでもしぶとく生きているような者を想像もしてみろ。哀れでならんだろう? 生き残っている者はただ、順番が後回しなだけさ」


 師匠は皮肉めいた口調でそう話した。オレは長生きなんてすればするだけいいと思っていたが……歳を重ねると考えも変わるのだろうか。


 ……もしもルーシュがオレよりも早く死んだとして、オレはどれだけ苦しいだろうか。……けれどルーシュがいつまでも死ねずに苦しんでいるとすれば、オレはそっちの方が辛いだろう。


 死とはある種の救済でもあるのかもしれない。もちろんそれは真っ当な人生を生き抜いた上での話ではあるが。


「ただ悲しいばかりの老後でもないよ。……昔、とても強い友がいてね。彼女は生まれながらに強かったためにずっと孤独で、若い頃に人をたくさん殺してしまったんだ。それを精算しなければならないって……私が彼女を殺すことになってね」


「……」


「来世では普通の存在に生まれ変わりたいって言っていたんだ。だから私は生まれ変わった彼女ともう一度、今度は楽しく戦うと約束してね。……だからそれまでは生きようと思える。もちろんそれ以前にわざわざ死のうとも思わないけどね」


 師匠は酒を飲みながらゆっくりとそう語った。記憶を覗くことはできないが、師匠はオレでは考えられないほど濃く辛い人生を歩んできたのだろうということが感じて取れた。


 昔のことを話している彼は悲しい表情をしつつも、その奥底からはどこか嬉しそうなものを感じた。


 食器を片付けてその日はすぐに眠り、翌日も昼頃から修行が始まった。魔力をこねくり回されるのは相変わらず痛いものだったが、師匠の言った通り最初ほどの激痛はしなかった。


「……魔力とは元々、肉体に刻まれた無属性の“基礎魔力”と魂に刻まれた“属性魔力”からなるものの総称だ。私が活性化させているのは基礎魔力の回路だけだから、瞑想でもなんでもして属性魔力の方は自分でやるんだよ」


「それも初めて聞きますが……基礎魔力の方しかできないんですか?」


「できないわけではないんだけどね。魂に直接手を出すのはリスクが高いから。……その上二つの魔力は強く繋がってるからね。そんなリスクを負わずとも基礎魔力の回路が活性化していればある程度それに対応するように属性魔力の回路も成長するのさ。意識的に魔力を流していればの話だけどね。」


 要は師匠が基礎魔力の回路を良くしてくれたから属性魔力の回路は自分で使って活性化させろってことか。


 魔力回路が活性化させられれば魔力出力と出力効率、魔力制御力がぐっと良くなる。オレの魔力はこれ以上増やすことはできないらしいが、その辺りが上達すれば戦闘能力は大きく向上することになる。


 そして何より、自身の魔力を“完成”させることは昇華に繋がるらしい。


 その日で魔力制御の修行は終わった。と言っても師匠が直接見てくれるのは、だが。


 オレもまだ白天や叢雲剣を効率良く使うためにはもっと鍛えなければならない。実際、今までの戦闘では一度に一回、ほんの数分しか使えなかった。


 だからこれからも修行の後に魔力を練る時間を作るつもりだが……案外それも必要ないのかもしれない。というのも、これからの修行は完全な実戦形式だからだ。


 オレは師匠を殺すつもりで斬りかかる。師匠曰く、実際の戦闘以上にタメになるものはないのだとか。オレもそれには何の疑問もなく同意できる。

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