表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第七章 英雄の街
110/123

第109話 時代に取り残された老いぼれ(3)

 エプシロンは弱者でありながら頑丈なオレを気に入ったのか、五分か十分か二十分か、ただずっと殴り、蹴り飛ばされた。こんなにも刀は重かっただろうか。こんなにも身体は重かっただろうか。


 オレは死への恐怖よりも、依然として戦いへの恐怖の方が大きかった。……アルファが恨めしい。死の方が恐ろしかったなら、もっとすっきりとした気持ちで死ねたろうに……


「もう飽きたな。お前もそろそろ死にたいだろう?」


「ゴフッ……がッ……。死にたか……ねぇよ……ばかやろう……」


「そうか。それは悪かった。だがこの世の中は弱肉強食よ。敗者は死ぬ。それが鉄則だ」


 エプシロンはオレの頭を掴んで宙吊りにした。オレは口から溢れる血液に溺れながら、なんとか意地を張って文句を言った。


 彼はオレに聞こえるように大きめな声で話していたが、オレにはほとんど聞こえちゃいない。……悔しいな。こんなつまらない最期は迎えたくなかったんだが……


 けれど戦いから解放されることにどこか安心している自分もいた。それが何よりも不愉快だった。だからオレはそんな不甲斐ない気持ちに負けない意味を込めてエプシロンを強く睨みつけた。


「さらばだ。グランデュース=ミルアルト。お前の目はせめて俺が記憶しておこう。……ッ!?」


「…………?」


 ぼやける視界の中、確かにオレの首を落とそうとエプシロンの右腕がオレに迫っていた。それは確かにオレの眼に写っていた。


 けれどオレの首が繋がっていたのは、逆にオレの頭を掴んでいたはずのエプシロンの腕と首が飛んでいたのは彼が助けてくれたからだ。


 彼はエプシロンから目を逸らし、オレの方へと寄ってきた。


「アリ……ス……さん……?」


「すまない。街に結界を張っていたら遅れてしまった。本当にすまない」


「気をつけて! アイツの強さは異常なんだ! だから戦っちゃダメ……!?」


 気づいたときにはオレの傷は完治していた。気だるさは残っていたが、さっきまでの重傷が嘘のようだった。


 あらほどの傷を治す治癒術を……この一瞬で? 気になることはあるが今はそれどころではない。


 首を刎ねてもエプシロンはまだ生きていたからだ。残機を一つ使って復活したらしい。つまりあと二回だ。


 さっきは不意打ちだったが、次はそうもいかない。アリスさんにオレが加勢してどうにかなるか……


「ミラ、君は後ろで見ていなさい。傷が治っても無理はすべきではない」


「ッ!? 一人で戦うんですか!? 無茶だ! アイツは番外って言って……」


「グランデュースの言う通りだぜ? ジジイ……痛かったからよぉ……俺ァ頭に来てんのよ」


「……“時の保存”か。……つまらんな」


 エプシロンは魔力をさらに滾らせ、反対にアリスさんは刀を鞘に納めた。アリスさんからはやはり魔力を感じない。どう考えてもエプシロンと戦えるような力はない。


 けれどなぜだろうか。アリスさんの右腕には何か不思議なエネルギーを感じていた。


「つまらんだと!? 老いぼれが! この俺の至高の力を……!!」


「“彼岸”『身体強化ブースト』」


 莫大なエネルギーに全てを任せたエプシロンの高速連撃を、アリスさんは軽々と回避しながらその右腕に感知できないエネルギーを溜め続けていた。


 何かが回転しているようだった。それだけで難しい技術だろうと見て分かるほどなのに、オレの眼では捉えられないほどのラッシュを軽く流しながらエプシロンの懐に入っていった。


「『煌魔天ステラ』……!」


「ッ!?」


 アリスさんの右腕に溜まっていたエネルギーは大爆発を起こし、空気や魔素を振動、破壊しながらエプシロンを飲み込んだ。


 そして驚くべきことにエプシロンの姿は消滅した。まだ残機は二つあったはずなのに、たった一度の攻撃で全てを無に帰した。オレはそのエネルギーを感知することはできなかった。


 できないのに、そのエネルギーには恐ろしさと神聖さを感じた。なるほど、これが“黄金の魔力”か。そんな神々しい呼び名をつけたのにも納得がいくほど素晴らしいエネルギーだった。


「アリスさん!」


「ん?」


「オレをアンタの弟子にしてくれ! アンタを師匠と呼ばせてほしい!」


「……そうか、私の力を信頼したか。……いいだろう。だが今は休みなさい」


 オレはその言葉を聞いて安心したのか、すぐに意識を失ってしまった。それも当然か。今でこそこんな健康体だが、つい先ほどまで死にかけていたのだ。


 しかし今回は嫌な気分ではなかった。やっと安心して後のことを任せることができた。


 その日は本当に久しぶりに、悪夢を一切見ない日だった。


 このときはまだ知らなかったことだが、こうして英雄と呼ばれた男に教えを乞うことができたというのだから、オレはこの日は実に幸運だったと言ってもいいだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ