第108話 時代に取り残された老いぼれ(2)
何を信頼すればいいのか。オレはそんなことに頭を悩ませながら街を練り歩いていた。
この街は冒険者が多いだけでなく、どこを歩いても大英雄・アリウスや大魔王・ネフィル=エスト、それからセリアの名が見えた。
そもそもプリセリドが英雄の街と呼ばれているのはなぜなのか。それは単純に彼らが皆この街の出身だからだ。神話の時代を象徴する英雄が三人もこの小さな街から輩出されているのは奇妙な運命のようなものだが、事実がそうなのだから仕方がない。
「……ッ!?!なんで……!!」
街の外れ、ずっと遠くに感じたことのある化け物のような魔力が出現した。
忘れるわけもない。会ったのが最近だというのもそうだが、アレほど強烈な魔力を忘れるわけがない。間違いなくあの魔力はエプシロンだ。
なぜここに来た……? いや、今はそんなことは後だ。アイツが本気で暴れたらこの街が消し飛んでしまう。
「……俺はただ散歩してただけなんだがなぁ……。お前に会うとは奇遇だな……」
「ハァ……ハァ……。……散歩ってんなら……何もせずにいてくれよ……?」
「まぁ無駄な破壊をするつもりもねぇがよ、目の前の料理を食うなってのも酷な話じゃねぇか」
オレはエプシロンの元まで走ってきた。なんとか穏便に済まないだろうかと淡い期待を抱いていたが、そうもいかないらしい。
どうにかプラスに考えるなら街に被害が出ないだろうということくらいか……。オレは震える手で八雲を抜いた。
「……一つ約束してくれ。オレが死んでも街には手を出さないでくれ。……あわよくばお前に噛み付くだろう少女のこともどうか見逃してやってくれ。お前は化け物みたいに強いんだ。……生意気で小さな子供の遺言くらい聞いてくれよ……?」
「……アリベル=ルーシュのことか。俺や王の命が脅かされない限りはその願いを聞いてやろう。代わりに俺を楽しませろよ……!!」
エプシロンの重く巨大な魔力がオレの全身を包み込んだ。まるで底のない深海に沈められたような気分だった。オレの心臓は波打ち、より一層の恐怖に包まれた。
今まで通り戦いに対する異常な恐怖心も華陽でアルファに遭ったせいでさらに膨れ上がっていたが、今回ばかりはそれも関係ないほどの実力差があるだろう。
「……ッ!?……セリア!?」
せめて対抗しようと天現融合を発動しようとしたが、なぜかそれができなかった。守護者との距離がどれだけ離れていようとも魂の繋がりがあるから発動できないなんてことはない。
なぜだ……? 心当たりがあるとするならやはりアルファの件だろうが……恐怖心のせいで技術までイカれちまったのか?
……それも分からないことではない。戦うことが恐ろしいのだから戦うための技が粗末になってもおかしくはない。
「クソッ……! “叢雲剣”」
「それか……! 相変わらず良いエネルギーだ!」
魔素を巻き込み全てを破壊する白天のエネルギーだが、セリアの炎を纏えなければ攻撃力は半減どころではない。“叢雲剣”だけなら持久力は上がるだろうが、今必要なのはそれじゃない。
「すっとろいぞ、グランデュース! 魂を燃やせ! 神話の一族の力はこんなもんじゃないだろう!!」
「ぐぁッ……!」
エプシロンの鋭く重い蹴りがオレの腹を貫いた。膝をつきながら着地したが、立ち直る前に顔を殴られた。
鼻と口、額と、あらゆるところから血が吹き出した。圧倒的な実力差にオレはただサンドバッグとなり、オレの抵抗は抵抗にすらならなかった。




