第107話 時代に取り残された老いぼれ(1)
老人からは魔力を感じない。それはつまり一星級程度も魔力を持っていないということだ。あるいは本当に魔力がないのか……いや、それはないか。それはあり得ない。
しかし彼の雰囲気にはどこか覚えがあるような……ないような……。それにこの特異性を考えるならベルドットさんの言っていた“行けば分かる”という言葉にも頷ける。
「オレはグランデュース=ミルアルト、どうかミラとお呼びください。えっと……」
“弟子にしてください”、そう言おうと思ったけれどどうにも言い出しにくかった。
本当に大丈夫だろうか、それがオレの本心だったからだ。ただオレよりも魔力の少ない者がこの街で最強と呼ばれるのが気になるのも事実。
「グランデュース……ああ、ネフィル=セルセリアの契約者か」
「……? なんでそれを?」
「風の噂で少しね……」
「……機密のハズなんですけど」
「……情報なんてものは簡単に流れるものさ」
まぁたぶんベルドットさんから聞いたんだろうな。それを濁す意味はよく分からないが……何か理由があるのかな。深く聞くのはよそうか。
「あぁ……そういえばベルドットが誰か来ると言っていたかな。話は座って聞こうか。何か飲むかい?」
「ええと……じゃあオレンジジュースを」
「ふふっ……そうか。ならそこで座って待っていてくれ」
オレはカウンター席に案内され、そこに座った。オレの頼んだジュースはすぐに出され、それを飲みながら話を続けた。
「ベルドットさんに紹介してもらったんです。彼の師匠がプリセリドにいると聞いたんで。……えっと、なんとお呼びすれば?」
「……私の名か。私など時代に取り残されただけの老いぼれに過ぎないが……そうだな。……アリスとでも呼んでくれ」
「ではアリスさん……これから世界は大きく動きます。でも今のオレはそれについて行けるほどの力がありません。なので……」
「……なるほど、そういうことか」
アリスさんはどこか納得したようにそう言った。そしてゆっくりと呼吸をしながら話し始めた。
「ミラ君、生きていく中で最も重要なものは何だと思う?」
「? ……力とか……ですか?」
「……悪くない答えだが……“一番”で言うならばそれは信頼だよ。金も力も策略も、愛も友情も……全ては信頼の上でしか成り立ってはいない。何をするにも信頼が大切なのだ。君は今、私のことを信頼できていないだろう? 私の力を」
そう言われた瞬間、オレは急に緊張した。全て見透かされていたようだ。オレはアリスさんから言い知れない恐怖を感じた。なぜか巨大な存在、それこそアルファのような者を相手にしているような気がした。
「……ああ、いや。勘違いしないでくれ。何もそれを悪いと言うつもりはない。むしろ君がちゃんと警戒していたから私は君のことを信頼できた。魔力の無い私に何も考えずに師事しようとしていれば弟子にしようとも思わなかっただろう。流石はベルドットの目をつけた男ということか……」
「! ということはつまり……」
「まぁ待ちなさい。それはあくまで私の話だ。君が私を信頼できるまではゆっくり考えなさい。君の勘か、ベルドットの言葉か、あるいは私の力か……。とにかく何かを信頼できるようになるまでは私は君を弟子とは認めない」
……何もかもを見透かされている。この人……本当に何者だ? 特殊な種族なのかなんなのか……とにかく普通の人間ではない。
どこか異常で……そして神聖な雰囲気がある。少し考えているとオレはすぐにジュースを飲み干しており、アリスさんに店を出て散歩でもするようにと促された。
「えっと……これはいくらですか?」
「お金はいらないよ。これくらいならサービスさ。さぁ、よく考えてきな」
オレはアリスさんの言葉に甘えて街に戻った。何を信頼するか、か……
別に疑っているつもりもないが、それほどほど信頼できていないのが現実だ。ベルドットさんの言葉も信じているし、アリスさんが只者ではないことも分かっている。
しかし……どうしたもんかな。オレがあの人の何かを知れればいいんだが……




