第105話 アルファ(2)
「……魔眼が覚醒したのですか。少し効きが悪いようですが……反抗できるほどではないようですね……」
「お前! ミラを離せ!」
「おっと、これは失礼しました。君の彼氏にはこれ以上手を出しませんよ。アリベル=ルーシュさん」
「待てッ……!」
「追うな! ルーシュさん! ……追ったところでどうにもならない」
ルーシュが剣を振ったことでアルファの手はオレの首から離れた。諦めたのか充分なのか、アルファとエプシロンは街を離れたが、ベルドットさんはそれを追おうとはしなかった。
当然だ。エプシロンだけでも手に余るのにそこにアルファもいるんじゃどうしようもない。
「……ルーシュ……オレは大丈夫だ。……死ぬこたぁない……。それより星香を……」
「う、うん! 心配ないよ!」
不安そうにオレの身体を揺さぶるルーシュに、オレは星香を治してやるように言った。オレも大丈夫ではないだろうが、星香よりはずっと大丈夫だ。
星香の心音は止まってしまっている。けれどベルドットさんとルーシュがいるなら助からないこともない。
自信と不安の混ざったルーシュの声に安心したせいか、オレは息が切れるように意識を失った。
随分と眠っていた感覚だ。夢の内容は覚えていないが酷い夢を見ていた気がする。
汗が服にびっしょりと染み込んでいる。今までも寝起きは酷いものだったが今回はそんな比ではない。イスダンでアルファに幻術をかけられたときと同じ感じだ。
たぶんまたアイツに何かを見せられたのだろう。極めて不快な恐怖心が鼓動を強く、速くしていた。
「おお、起きたのかい? 君、安定剤を忘れていったろう? 寝てる間に飲ませておいたが、また随分魘されていたな」
起き上がったオレに声をかけてきたのはリュウラ先生だった。ここは保健室だったのか。時計を見るからにあれから半日ほど経ったといったところだろうか。
「……先生……み、みんなは?」
「みんなというのが誰を指しているのか知らないが、アリベル君はもうじき来ると思うよ。あと北のお嬢様もいたが、彼女はもう帰ったらしい」
そうか、星香は助かったんだな。それなら問題ないか。オレの状態もしばらくすれば治るだろ。
「どうせ今回も何があったのかはよく分からないんでしょ?」
「……はい。……まぁなんだか……うん……」
「……薬の効きが悪いね。それとも充分に効いててこれなのか……。明後日が終業式だけど、それまでは寮で休んでなさい。私の方からランファ先生には伝えておくから。……終業式の日も無理して出る必要はないけどね」
確かに安定剤を飲んでる割には心臓がやけにうるさい。落ち着いているように見せてはいるが、落ち着いているとはとても言えない状態だ。
……ただまぁ今回はルーシュと顔を合わせても平気だろう。人を見ることに対してはあまり恐怖を感じていない。どちらかといえばオレ自身を嫌悪しているというか恐怖しているというか……
「夏休みはどこか行くのかい?」
「……家に帰ってからプリセリドの方に行こうかと」
「プリセリド? 血に呼ばれたか?」
「そんなわけないじゃないすか」
オレはリュウラ先生から一月分の薬を受け取り、迎えに来たルーシュと一緒に寮に戻った。
その日と翌日は室内で安静にしていたが、心配したルーシュとジンリューが見舞いに来てくれた。どうやって男子寮にルーシュが入ってきたのか知らないが……どちらにせよやっぱり人と会っても問題はなかった。
これまでとは違いただ一人でも何かが怖いし不快にも感じていたが。




