第104話 アルファ(1)
エプシロンの魔力が増加したかと思うと、そこから分身が一つ現れた。分身は本体よりも魔力量は少なかったものの、まだ底が見えないほどの力を感じた。
本体はベルドットさんへ、分身はオレに向かってきた。そしてルーシュと星香はオレのサポートに回ってくれた。
オレは先のことを考えることもせずに叢雲剣と天現融合を発動した。セリアの魔力との融合は少しずつ上達している。消耗が激しいから腕しか融合させないが、その分極めて高い融合率になっている。
「アルファさんに戦闘不能にされたって聞いてたんだがな! 何事だ!?」
「大したことなかったんだろ……!」
「ウチの最高戦力をそう言われちゃ立つ瀬がねえよ!」
オレは八雲でエプシロンの蹴りを受け止めたが、その衝撃に耐えられずに数十メートルも吹き飛ばされた。
腕が、刀がガクガクと震えている。痺れたのではない。相変わらず戦いが怖いのだ。刀を振るうのが怖い。どうしても起き上がる気力が湧かない。
「……なんだ? やっぱり大したことなかったな。期待したのが損だったか」
「ッ! 分身なんて! どういうこと!?」
「アーサーの野郎が説明してたろ?“時の保存”だと」
「くッ……!」
「ルーシュ様!」
剣で襲いかかったルーシュをエプシロンは軽く薙ぎ払ってゆっくりと星香の方へ向かっていった。
……いや、ダメだ! 何を恐れてるんだ! 身体が動かないというなら心で動け!
オレは高速移動でエプシロンと星香の間に割り込み、彼が繰り出す拳を刀の腹で受け止めた。
「ほう……動きはいいな。それにお前に触れる度に俺の分身が弱っているのもお前の力……だろ!?」
「ゔッ!」
「かはッ……!」
「星……香……!」
エプシロンの魔力の衝撃波は、オレを貫通して星香にまで届いていた。オレは心臓を直接殴られたかのような言葉にできない痛みによって全ての技が解除された。
まるで相手にならなかった。この戦いにもっと積極的になれていればもっと戦えただろうか?
……分からない。どこからかルーシュが止めてくれと懇願する声が聞こえる中、エプシロンはオレを仕留めようと近寄ってきた。
オレは血反吐を吐きながら震える脚で起き上がるとその瞬間、エプシロンの魔力を纏った拳がオレの顔目掛けて飛んできた。
けれどその拳がオレに届くことはなかった。因縁深いあの男が止めていたからだ。
「……!!」
「止めなさい。ここで殺しをするのは。勝手なことをされるとルシファーがお怒りになりますよ」
「……アルファさん……。しかし俺達には自由が与えられてるハズだ。コイツらを殺すことの何が問題なんだ……?」
「……お前はいつ、私よりも偉くなった……?」
怒りを含んだエプシロンの口調に対し、アルファはそれ以上の怒りで応えた。それにどこか恐怖したエプシロンは分身を解除し、大人しく魔力を抑えた。
「失礼しました。私達はもう帰りますので」
「おい……! 待て! アルファ!!」
「………! まさか君、もう戦えるほどに回復したのですか? 一体何が……」
アルファは戸惑っている様子だった。コイツと遭遇してからオレはどこかおかしくなった。やはりコイツは何かを知っている。
オレはアルファの顔を見るだけで苦しくなったが、膝をつきながらなんとか刃を向けた。
「お前はオレに何をした? お前は何者だ!?」
「……私は私ですよ。ルシファーに忠誠を誓う一番目の騎士、番外・アルファ、それが私です。君のその精神力には敬意を表しますが、邪魔なのも事実……!」
「ッ……!」
アルファはオレの首を掴んで、仮面の中から覗いた魔眼がオレの瞳を覗き込んだ。アルファの瞳の奥からなんとも言い難い恐怖が迫ってきた。
恐ろしいのに目を逸らすことができなかった。魔眼の恐怖の中にどこか美しさも感じたからだろうか。
とにかくオレは抗うことができず、数秒間目を合わせてから全身が脱力した。意識を失うまでにはならなかったが、どうにもできないほどにただ虚ろだった。




