第102話 子は望まずに生まれ来る(2)
オレは一時間ほどルーシュと話してから星香と合流した。彼女はさっき見たときよりはいくらか元気を取り戻したようだが、それでもかつての気力というか、力強さは感じなかった。
「この街はいかがでございましょう。つい先日まではロウドンとの戦争によって誰もが怯えていました。そういう点で見ても私はミラ様に感謝をしなければなりません」
「たまたまその結果になったってだけだ。否定するつもりもないが、そんなところで感謝されても気恥ずかしいよ」
アレはオレの力だけではない。割合で言えばむしろ少ない方だ。
オレは星香と山道を登っていた。この上に社があり、そこからの眺めが良いらしい。オレ達以外に人が見当たらないのが良いのか悪いのか……
途中で疲れてしまった星香を背負いながら、二十分ほど道を登った。そして少し道を逸れたところに案内されると、そこからは赤や黄色の光に輝く街を見下ろせた。
「はぁ……夜景ってのは良いもんだな」
「そうでございましょう? 昔はよく抜け出してこの景色を見てたんです。私の未来を気にせずにいられましたから……今ではどこに行っても頭をよぎってしまいますが、ミラ様といるといくらか楽になりますの」
「……それならいいんだがな。でもまぁ無理はするな。たまには弱音を吐いたっていいんじゃないか?」
近い未来、自分が死ぬのが分かっているのはどれだけ辛いことだろう。“大丈夫”だと言いたいけれど、オレにはそんなことは言えない。
無責任に励ますことはできない。オレが励ましに言えることなんて彼女はとっくの昔から聞いているだろうから。
「私、たまに思うんです。……なんでお母様とお父様は私のことを生んでしまったのだろうと。失礼かもしれませんが……若く死ぬことを知っているのに、押し付けるなんてあんまりじゃないですか。子どもは望んで生まれてくるわけではないというのに……」
星香は薄っすらと目に涙を浮かべながらそう訴えた。オレにではない。今は亡き親に対してだ。
生まれたくなかったという小さくも強い怒りを感じられた。今までにないほど人の感情を感じることができたのは、彼女の能力を継承したからだろうか。
「……オレは気休めしか言えないけどさ、“生きる”ってのは必ずしも幸せなことじゃないと思うよ。辛いことも多いし、むしろ辛いことしかない場合だってある。なら生まれてこなければいいって思うのも当然だよ」
「でも君が生まれなければ君は幸せも知らないし不幸も知らないってことだ。そしてオレやルーシュも、この街の人達も、君の親も、君自身だって君のことを知らないってことだ。それは悲しいじゃんか」
「……ミラ様は私を知らなかったら悲しいですか?」
「どうだろうな。知らないままならそれこそ幸も不幸もありはしない。でもオレは星香と会えて嬉しいよ。友達ができるのは……言い方は悪いかもしれないけどオレに好意を抱いてくれる人がいるのはやっぱり嬉しいよ。だからこそ死んでほしくはないし、死なれちゃオレは悲しいし怖いよ」
「……ふふっ、確かに気休めでございますね。……もし良ければ、もう少し気休めを聞かせていただけませんか?」
星香は嬉しそうにそう言った。初めて年相応の幼さを感じた気がする。だからこそオレの言葉が無意味ではなかったと分かった。
「他にか……。あれかな。一回だけ本当に死ぬんじゃねぇかって思うほど危ない目に遭ったんだけど、あのときは流石に焦ったよ。怖いってよりも焦ったね。でもなんだかんだこうして生き残ってるんだ。星香だって案外死なねぇかもしれねぇよ」
「そう言っていただけると嬉しゅうございます。……ミラ様の眼には何か映っておられませんか? 私の眼には限界がありましたけど……」
「まだ把握しきれちゃいないけど、オレのは戦闘に特化してんのか占いの力は弱そうだったよ。“動き”がよく見えるようになったくらいかな」
「そうでございますか。もしかしたらそれが本来の力なのかもしれませんわね」
「ははっ、どうだか」
思えば魔眼によって星香の力は底上げされていたようだが、オレの魔力は相変わらず五星級から変化していない。
ほんの少し増えてはいるが、六星級までにはなっていない。それほどまでに六星級の壁は高いのか、あるいはオレに何かしらの問題があるのか……
そんなことを考えながら街を眺めていると、突然、街の真ん中が爆発とともに吹き飛んだ。




