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神話の英雄譚/運命の逆賊  作者: わらびもち
第六章 華陽大帝国
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第101話 子は望まずに生まれ来る(1)

 西大陸の小さな国に男は来ていた。それは栄えた国であり、街の中を子供達が走り回っていた。


「わッ……!!」


「気をつけなさい。転んだら痛いですよ」


「ありがとう……お兄さん?」


 転びそうになった少年を男は襟を掴んで掬い上げた。少年は転ばずに済んだことに感謝しつつも、仮面で顔を確認できないことに戸惑っていた。


 それでも男は遠慮がちに“いいえ”とだけ残してまた歩みを進めた。


——最近はよく声を聞きますね。今度は何があったのですか? ベータ。


——いやぁ……申し訳ねぇんすけども一つ頼みがございやして……。エプシロンの奴がベルドットの方へ行っちまいやして。回収してくれやせんかい?


——それは構いませんが……どちらに?


——華陽の方に行ったらしいです。金色の水晶は見つけたいが、少々厄介なことになりやしてね。そっちは諦めてもええので被害の少ないうちにエプシロンを回収してください。


——華陽って……北大陸じゃないですか。


 当然だが西大陸から華陽、つまり北大陸までは相当の距離がある。転移門などを駆使しても通常なら数日はかかる。が、これもまた当然のことながら彼は普通ではない。


——分かりました。尽力しましょう。被害は出さない方がいいんですね?


——ええ、お願いしやす。アイツはどうも暴れるきらいがございやすから、アンタが止めてくれ。


***


 オレはルーシュのために用意された部屋に来た。オレの部屋の隣だから移動も楽だな。ノックをして返事を確認してから部屋に入った。


「話というかお願いというかが二つあるんだけど……。まず今日の夜は星香と出かけてくる」


「浮気ってこと?」


「そうじゃないけど、いろいろ事情があって……」


「まぁいいよ。あと先に言っとくけど、私の治癒じゃ彼女は治せないからね。……残念だけど」


「えっ……どこまで知ってんの?」


「私耳良いもん。そこの部屋で話してたことは大体聞いてたよ」


 マジか……。まぁ確かにルーシュは昔から耳も目も良いから不思議じゃないが……だとしたらガバガバなセキュリティだったな。


 ルーシュの治癒能力は多少アテにはしてたわけだが……星香のはたぶん力の前借りみたいなもんだもんな。生命力を活性化させても悪化しかねない。


「それで二つ目は?」


「いや、ホントに言いにくいんだけど……」


「……なに?」


「……リュウラ先生から安定剤をもらい忘れてて、だから今夜ぐらいからルーシュと顔合わせるのちょっと難しいかも」


「また!?ロウドンのときも忘れてなかった!?」


「いや……急だったから。ホント申し訳ないんだけどね……。代わりにホラ、夏休みには一緒に家に帰ろう」


 たぶん今でも安定剤がなかったらルーシュとまともに顔を合わせることもできない。それはルーシュに限らずそうだろう。あれからずっと悪夢を見続けているからまず間違いない。


「……でもどうせ夏休み中はどっか行っちゃうんでしょ? 私だけ置いてかれちゃうよ」


「勘も鋭いなぁ……。今んとこはルーシュをユリハ様に紹介しようかと考えてるけど……」


「えっ!?ユリハ様に!?」


「許可してくれるかは分からないけど、よければルーシュの師匠にでもなってくれないかなって。それかセリアを置いてく予定だからセリアに見てもらってもいいかなとも思ってるけどね」


「待って! 私置いてかれるの?」


 オレがルーシュと話していると突然、セリアが実体化して現れた。そういえば話してなかったっけ?


 その辺はオレの中で完結しちゃってたんだっけな。ルーシュの方はとりあえず満足そうだからもういいか。


「だってさ、ベルドットさんの師匠にこっちはお願いをするわけで。そこに英雄様なんて同行させたら……ねぇ? だからセリアには夏休み中は校長先生の手伝いでもしてもらおうと思ってたんだけど……」


「……分かったわよ。代わりに何かあったらすぐに召喚しないとダメよ? 距離が開くと大変だろうけど、近くにいないと天現融合もできないだろうから。まぁ大抵のことはその“師匠”って人が守ってくれるだろうけど」


 セリアは説得に応じてくれたようだ。天現融合も日に日に上達している。今は少し彼女と離れてみるのも成長するのに必要かもしれない。

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