第99話 行けば分かる(1)
「あなた様のことは……ミラ様とお呼びしても?」
「ん? うん。まぁいいけど」
「そうですか。……嬉しいです」
星香は嬉しそうな、けれど少し寂しそうに話した。時折り見せる彼女の儚げな表情の正体は何なのだろうか。オレにはそれを尋ねることはできなかった。
「ミラ様は、魔族についてどう思われますか?」
「魔族ねぇ……あんま見たことねぇから分かんねぇんだけど、まぁ人間よりも基礎能力が高い種族ってとこかな?」
「……人類の敵だとは思わないのですか?」
「それはずっと昔の話だろ? まぁ根本的に粗暴な種族だとは聞くけどな。でもそればかりじゃないだろ」
「ふふ……ミラ様は素晴らしいですわ。背後にいらっしゃる英雄様の影響もおありなのでしょうか」
セリアのことも知ってるのか。占いってのは便利な力だな。まぁオレの視野が広いのは確かにセリアのおかげだろうが……
そもそもオレが会った魔族ってのがユリハ様やその周りの人達だもんなぁ……。やっぱり会ってみないと分からないことはある。
「実は私……というより神社家はアミシアという魔族の子孫でございますの」
「へぇ……。まぁ魔族の子孫ってのも珍しくはないんじゃないか?」
神話の時代では人類と魔族は敵対していたらしいが、それ以降は交流も盛んだった。詳しくは知らないが魔族の血が流れている人間というのも世界中を見れば珍しくもない。
「あなた様がそのような見方をするお方で良かったですわ。……それでその、アミシアという者が“黄金の魔眼”の始祖でございますが、その起源についてお話ししますわ」
起源……それが何に関係ある話なのかは分からないが、とりあえずは話を聞こうか。魔眼の起源となればもしかしたらオレにも意味のあるものかもしれない。
「“黄金の魔眼”、それはもともと大魔王・ネフィル=エスト様から授けられた力なのです。極めて強大な力であったため長いこと素晴らしい力とされていましたが……」
「……いましたが?」
「それはもともと魔族の力ありきの力だったのです。そのため代を重ねるごとに弱くなっていく身体はその強大な力に耐えられなくなりました」
「事実、今の私達であれば20の歳が最も強く、25には力をほとんど失い、30にもなれば必ず命を落とします。事実、力を有していた私の父は28に亡くなりました。母は力とは関係のない事故によって数年前に亡くなりましたが」
「!!」
ということは……星香の命も長くはないということか。彼女が当主だというのにも納得がいった。先代はすでに亡くなっていたのか。
……しかしそんなことはどうだっていい。星香は助からないのか? オレの口からはなかなかその質問が出なかった。
「私の後継ぎはおりませんの。子を成せば継承はできるでしょうけども、その子は恐らく20歳にもなりませんわ。ですから……もしミラ様がよろしければ、私の魔眼を継承していただきたく思います」
魔眼の継承……? そんなことができるのか? ……オレは継承能力者についてそれほど知っているわけではないが……。いや、今はそうじゃないな。
「例えばオレが継承したとして、星香の寿命はどうなる?」
「……変わりませんわ。すでに私の身体は壊れかけでございますから」
「だとしたらオレもなかなか受け取れないよ。オレにはルーシュとの約束があるから生きてたいし、仮に子どもができたらその子の寿命も奪ってしまうかもしれないんだろ? 君には悪いと思うけどそれはそれとして……」
「その心配はございませんわ。私の占いは寿命を縮めるようなことなら大吉とは出ませんし、何よりミラ様はグランデュース家でございますから」
……前者は分からんでもない。オレが損をする点がほんの少しでもあるならまぁせいぜい吉が限界だろう。
ただグランデュースだからという根拠が分からない。今までの話にグランデュースは関係ないと思うんだが……
「君はグランデュースについて何を知ってるんだ?」
「かのエスト様はグランデュース家の魂の盟約者でございますから。あのお方の力は私達には過ぎたものでございましたが、あなた方にはあって当然とも言えるものなのですわ」
「……一体どこからそんな情報を……」
「私の目は万能ですの」
…………なるほど、華陽が国の宝とするわけだ。まさか当人も知らない情報をこうも簡単に得られてしまうとは。歴史の破壊者が欲しがる気持ちも分かる。
「君がそこまで言うなら断らないよ。ただ良いのか?国としても大切な力だろ?」
「誰も口出しはできませんわよ。だってそれが吉なんですもの」
「そうか。じゃあ喜んで受け取ろうか。そうすれば歴史の破壊者に取られる心配も少ないってもんだ」
「……? どうしてそんなに自信がおありなのですか?」
「なんてったってオレは運が良いからな」
「なんと……私としたことが一本取られてしまいましたわ。ふふっ……なら右手をお出しになっていただけますか?今から継承を行います」
オレは星香の合図に合わせて手を差し出すと、彼女の手から力が流れてくるのを感じた。これが継承か……
言葉の綾ではなく実際に目が熱くなり、何かがくっきりと刻まれるのを感じる。セリアの炎とは別の小さく強力な炎がオレの中に誕生した。
「ッハァ! ……ハァ……ハァ……」
「お、おい! 平気か!?」
「……ええ。力の継承で少し疲れただけですわ。……恐らく次第に魔力も無くなるかと思いますけれど……」
「待てよ! オレが力を受け取っても寿命は変わらないって言ったじゃないか!」
「……寿命は変わりませんわ。ただ力を失う段階が早くなるというだけでございます」
星香は酷く息を切らした上に、魔力も明らかに減少していた。これが人体に無害なんてことはないだろう。心なしか虚弱になったようにも見える。断っていれば良かった、オレはその後悔も強かった。
「せめて君の身体を治す方法は探してみよう。オレは君に死んでほしくない」
「……そう思っていただけるだけでも嬉しいですわ。できることならばミラ様が私に靡いていただければなお嬉しいのですけどもね……」
「……憐れんでほしいって言うなら聞くがな。君が願うならオレはなんでもしてやりたいが……」
「それはズルでございましょう? 私はそんなことはしとうございません。ミラ様がルーシュ様のことしか愛さないというなら……。……いえ、ならば一つだけ私の望みを聞いていただけますか?」
オレは星香の願いを聞いてから彼女の案内で地下へ向かった。これは昔、何かが起こったときに逃げ込む場所として掘られたものらしい。神話の時代に起こった戦争でも利用され、それ以前の記録も少し残っているのだとか。
案内とは言っても地下はただ広い一本道だったため、星香とは入口まで案内してもらってそこからはオレ一人で歩いていた。




