第09話 天現融合(2)
(…………じゃあ良いニュースは……?)
(ミラの魔力が成長しなかったのは生まれ持った魔力が本来身につくべきだった魔力を全部食べちゃってたからだね。まぁそのおかげで魔力の質は良いものになってるけど。つまり魔力制御を鍛えればミラの魔力は何星級にでもなれるってこと。まぁ時間はかかるでしょうけどね)
(ほ、ホント!? ……ホント!!?!?)
(本当よ。嘘でも予測でもないわ。間違いなく君は成長できる。もちろん完璧になるまでは私の魔力で君の魔力をコーティングしといて多少はサポートしてあげるから、ちょっとずつだけど魔力はすぐに増え始めるわよ。魔力制御も私が面倒見てあげるから、ミラが思ってるよりはずっと早く上手くいくんじゃないかな)
そうだとするなら……それは何より良いニュースだ。オレはさっきまでのテンションとは一転、急にやる気に満ちてきた。
やっと道に光が灯ったような感覚だった。道を照らしてくれる師がいるなら、オレは強くなれる……! これが、セリアがオレにとっての英雄となる瞬間なのだと、確かにそう思えた。
しかし現実はそう甘くない。魔力の特性を封じることができるほどの精密な操作をするためには、魔力を自分の身体の一部のように、いや、それ以上に扱えるようにならなければならない。
そしてその操作力を四六時中維持しなければならないのだ。いくら集中しても上手く操ることはできず、ただ諦めるわけにもいかないのでオレは魔力球の魔力だけを上手く操作できるように鍛えるようにした。
魔力を魔力で覆ってしまえばある程度特性を抑えることはできるが、小さな球体で辛うじて可能なものを全身で行うなんてのは現実的ではない。
やはり少しずつオレの魔力を使役していくしかない。それは無限にある角を少しずつ削って丸くしていくようなものだった。
(……難しいな……。ほんの少しずつなら完全に操作することも夢じゃないけど……それを全部の魔力でやんなきゃなんないんだもんな……)
(最初は少しずつでもいいのよ。意識をそこから拡大していけばいいだけだから。焦らなくていいわよ)
(……うん)
セリアの言う通りだ。まずセリアがついているのだから不安に思うことはない。まずは少しずつでいい。少しずつ、少しずつ、オレは魔力の球体を大きくしていって操る魔力量を増やしていった。
魔力球と体内を流れている魔力では扱いやすさが全く違ったが、それでもまずはイメージを持つことが大事だった。魔力を己の支配下に置くというイメージが。
「さて、皆さん! 今日のところはこのくらいにします。ほとんどの方は知ってるかと思いますが、一ヶ月後には序列戦が行われます。それまではほとんどの時間が魔法戦闘学になりますから、明日からはこの場に集合でお願いします。ではしっかり疲れを取ってくださいね! また明日お会いしましょう」
もう授業の終わりの時間だったか。集中していたせいで全く時間の流れが分からなかった。
改めてオレの状況を考えると酷いものだ。みんな天現融合の訓練をしているのにオレは魔力制御という初歩をやっているのだから。まぁ内容はとても初歩と呼べるものではないが……。
(ねぇ、序列戦って何?)
(ん? あぁ……まぁその名の通り学園内の戦闘能力を試合形式で測って序列を決めるテストみたいなものだよ。高等部の学年問わずクラスごとにやるんだけど……時期で言うと学年の始めと後期の始めだから年に2回かな。予選は訓練場でやって、本戦は闘技場で公開でやるんだ。序列戦でいい結果を出すとスカウトとかも来るらしいよ)
(……ミラって将来はどうしたいの?)
(オレは法帝……いや、九星級にならなきゃいけないんだ。ずっと夢だから)
(そっか。まぁ理由はまた今度聞くけど、それならミラは序列戦で優勝することが目標だね)
(うん。……うん!? いや、一年生だけじゃなくて二年も三年も……四年生だって出るんだぞ!? そう簡単に勝てるもんじゃ……)
(簡単じゃなくても負け腰じゃダメよ! そもそも法帝になるような人達は年齢なんてほとんど関係ないんだから! 勝つ気で臨みなさい!)
うーん……確かにそれもそうか。オレにはセリアがついてくれてるんだ。
魔力量が飛躍的に上昇することはなくとも、手合わせでもしておけば戦闘技術はいくらでも引き上げることができるはずだ。そのためには時間を無駄にはできない。
人のいるところではセリアと手合わせもできないし、夜にどこか広場にでも行くか。それまでは寮で魔力を練っていればいい。
(……よし! じゃあ目標は優勝だ。それに向かってセリアは遠慮なくオレをしごいてくれ)
(まぁみんな頑張るだろうし一朝一夕ではいかないだろうけどね)
(…………君は一体誰の味方なんだ)
オレはセリアから身体や魔力の使い方を言葉で習いながら寮に戻った。
その間も常に手のひらの上に魔力球を作っていた。まだまだ完全制御には及ばないけれど、何日か続ければ他のことに集中しながらできそうだ。……でもまぁ無意識の中で制御するのは難しいな。
寮は小さな部屋だが、それでも生活するには充分な設備だった。特に特等クラスは物が良く、何よりベッドがフカフカだった。そしてセリアは幽体化を解き、当然のようにそのベッドに座り込んだ。
「部屋ではちゃんと面倒見てあげられるわね。私の前に座りなさい。魔力の流れを身体に覚えさせるわよ」
「お、おう。そんなことできんのか」
オレは言われるがままにセリアの前に座った。セリアはオレの頭に手を置き、そこから少量の温かい魔力が流し込まれた。
その魔力がオレの魔力の軌道を修正し、魔力の粒子を一つ一つ包み込んでいった。確かにこれを続ければ早いうちに魔力制御のコツを掴めそうだ。
セリアの魔力制御力はオレの比ではなかった。他人であるオレの魔力だというのに、セリアはオレ以上にオレの魔力を従えていた。
そもそも他人が魔力を操作することで魔力制御を上達させる訓練法なんて聞いたことがない。
「セリアの時代の人達はこんなに魔力の操作に長けてたのか?」
「そんなことないわよ。私の近くにはエストがいたから」
「ネフィル=エスト様か……。エスト様は魔力の扱いが上手だったのか?」
「上手なんてもんじゃないわよ。私が今やってるのは簡単に抵抗されちゃうけど、エストなら抵抗されても問題なく人の魔力を支配できちゃってたから。それで魔法とか能力を発動させないようにもしてたのよ。別格よ、別格」
それはすごいな。完全に自分のペースで戦えるのか……。オレもそれくらい強くなりたいな。たとえ誰と戦っても誰でも守れるくらい……それくらい強くなりたい。
「セリアがエスト様について話すときはすごく楽しそうだな。どんな人だったんだ? 恐ろしく強い人だっていうのは神話を聞いてれば分かるけど、その人柄はなかなか語られるものでもないから」
「どんな人か、かぁ……。なんていうか……優しいけど大雑把で……自分に真っ直ぐな人だったかな。誰よりも強くて、誰よりも頼りになって……でもみんなと同じ感性だったから誰よりも苦しい思いもして。その強さは特別だったけど、普通の人と変わらない人だったよ」
「そっか。でもなんか、そういう話を聞くとオレも嬉しいな」
セリアは少しだけ寂しそうな目で話してくれた。そうか。セリアもそうだけど、英雄だなんだと言われても中身は普通の人間なのか。
それを周りで見ていた人間が、囃し立てていただけなんだ。オレはセリアの温かい魔力に包まれながら、笑って話を聞いていた。




