第三話
ヴモォォォ!!!
フォレストボアが再び地面を蹴り、突進してくる。
リシェルは真っ先に、さっき落とした盾に向かって走る。
「オラァ!!」
レオンは今度は石ではなく、土を蹴り上げる。
「エンチャント」
蹴り上げた土がポッと光り、加速してフォレストボアに矢のように降り注ぐ。
バチバチバチ!
と音を立ててエンチャントされた土がフォレストボアの顔にぶつかり、視界をふさぐ。
フォレストボアは怒り狂い、顔を振り回しながらあらぬ方向に走っていく。
その間にレオンは盾を起こそうとしている二人のもとに駆け寄る。
さっきかけたエンチャントのせいで重くなった盾は細身の女の子二人には重すぎるようで、
「くぅぅ~!!」
「もう一度行きますよ、せーの!」
「エンチャント、軽量化」
「「うわあああ!!」」
力いっぱい持ち上げようとした二人は、急に軽くなった盾を投げ出して転んでしまった。
「え?!盾が急に?!」
「いきなり軽くなりましたね…まさかレオンさん?!」
リシェルは改めて盾を持ち上げ、重さを確かめるように盾を振った。
「……本当に軽い」
「重くできるなら軽くもできるだろって思ったんだけど…成功だな!」
リシェルは小さく頷いた。
「使える」
そして森の奥を見る。
さっきのエンチャントされた土に視界を塞がれたフォレストボアが、まだ怒り狂って木を薙ぎ倒している。
ブモォォォ!!
枝が折れる音が響く。
リシェルは盾を構え、
「フィア、合図で魔法。もちろん最大火力で」
「はい!」
「そろそろとどめを刺す。レオンにも協力してほしい。」
その言葉と同時に――
フォレストボアが怒りで血走った赤い目を向けた。
次の瞬間、
地面を蹴って巨体が突進してくる。
「行きます…!」
軽くなった盾を抱えたリシェルは、フォレストボアに向かって走り出した。
レオンは枝を握り、
「エンチャント」
光った枝をフォレストボアの足もとに槍のように鋭く投げる。
枝がフォレストボアの足を貫き、一瞬動きがとまる。
リシェルは勢いのまま突っ込むと、数メートル手前で大きく跳躍する。
「レオン!」
リシェルの合図に合わせて、
レオンが手をかざして叫ぶ
「エンチャント。ー重量化!」
盾が光った。
ズンッ!!
空気が沈む。
軽かった盾が、一瞬で質量を取り戻す。
いや、それ以上に。
リシェルはそのまま落下した。
ドォォン!!
巨大な盾がフォレストボアの背中に叩きつけられ、
前につんのめり、地面を抉りながら滑る。
「いいぞ!」
リシェルは着地してすぐに叫んだ。
「フィア!今です!」
フィアは木の上で宝玉を構え、
「バーニングスピア!!」
…が、何も起こらない。
「…あれ?」
フィアが宝玉をコツコツとつつくと今度は、あたりの木の葉が全部吹き飛ぶような強い爆発が起こる。
「ふぎゃ!!」
フィアが吹き飛ばされ木から落ちてきた。
「いたた…不発です~…。」
リシェルが駆け寄ってきて心配している横で、
レオンはふと空気がよどんでいることに気づく
(フィアが魔法を使ったら…なんだ?空気中のマナの流れが変だ…)
そして朝、エンチャントをした枝がよく燃えたことを思い出す。
(リシェルが言ってたように、空気のマナと反応するなら……)
そして空気に向かって、
「エンチャント」
空気が揺れ、森の中のマナがざわめいた。
フィアの宝玉が強く光る。
「え……?」
レオンは振り替えり、
「フィア!もう一度撃ってみてくれ!」
「は、はい!」
フィアはぱっと飛び起き、フォレストボアに向き直る。そしてー
「バーニングスピア!!」
宝玉から炎がゆらっと吹き出たと思うと、あっという間に炎がふくらんでいく。
「すごい…!」
フォレストボアが起き上がり、怒り狂った目をむけているがもう遅い。
フィアが宝玉を掲げると巨大な炎がさらに渦巻き、森の空気が熱くなる。
「いきます!!えいやー!」
刹那、赤い稲妻がフォレストボアに直撃した。
爆炎がフォレストボアを包み込み、森が揺れる。
三人は砂埃に顔を覆った。
しばらくして――
煙が晴れた。
フォレストボアは地面に倒れて動かない。
フィアがその場にへたり込む。
「はあ…!やりました……!!」
レオンが息を吐いた。
「これで初依頼…!」
リシェルが頷く。
「成功。」
森の風が静かに吹いた。
しばらく余韻に浸った後、三人はフォレストボアを眺めて、
「……でもこれ、どうやって持って帰る?」
「……」
「……」
数秒後、フィアが言った。
「……牙だけ持っていきません?」
三人はうんうんと頷き、
「それでいい気がしてきた」
「証明になる」
しばらく格闘したあと、巨大な牙を二本、なんとか外すことができた。
レオンが肩に担ぐ。
「重っ」
「それ持って村まで歩くんですか!?」
「お前が持つか?」
「がんばってください!」
三人は森を抜け、村へ戻った。
村の入り口に着くと、畑仕事をしていた村人がこちらを見た。
「あれ?」
「帰ってきたぞ」
しかし、レオンが背中にしょっているものを見て村人の顔色が変わった。
レオンが牙を地面に落とす。
「……それ」
「フォレストボアの牙か?」
フィアが胸を張る。
「はい!倒しました!」
その瞬間、村人たちがざわめいた。
「えっ!?」
「フォレストボア!?」
「この辺に出たのか!?」
レオンが眉をひそめる。
年配の男が慌てて言った。
「いや…この辺の森に出るのは普通、小さい魔物だけなんだ」
「せいぜいゴブリンとかウルフとかしかいないはずなんだが…」
「……そんなはずは」
村人に呼ばれた村長はやってきて牙を見るなり、表情が固まった。
「……間違いない。フォレストボアだ」
村人たちがざわめく。
「どうしてこんな所に……」
「森の奥の魔獣だろ?」
リシェルは静かに言った。
「私もそう思う。こんな浅いところにフォレストボアは普通はいない」
村長が困った顔で言う。
「とにかく…村を助けてくれたのは確かだ」
そして深く頭を下げた。
「ありがとう。今日は村に泊まっていってくれ」
フィアが目を輝かせる。
「宿ですか!?」
村長が頷く。
「空き部屋が一つある」
一瞬、三人の動きが止まった。
フィアが首を傾げる。
「……一つ?」
レオンも同じ顔をする。
「一つ?」
リシェルは平然と言った。
「問題ない」
フィアが慌てて両手を振る。
「いやいやいや!問題ありますよ!?」
レオンが肩をすくめる。
「まあ俺は床でもいいけど」
「それも困ります!!」
リシェルが真顔で言う。
「順番に寝る?」
「そういう問題じゃない~!!」
宿に案内されながらリシェルは森の奥をちらりと見た。
風が吹き、木々が揺れる。その奥は――
まだ暗い。
「……」
リシェルは小さく呟いた。
「きっとまだ、何かいる」




