表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第二話

夜明けの森は、思っていたより静かだった。

冷たい朝の空気が肺に入る。

夜の湿気がまだ地面に残っていた。

空は薄い青に染まり始めている。


「……朝か」


体を起こすと、背中が少し痛かった。

木の根を枕にして寝ていたせいだ。


焚き火の向こうでは、リシェルがすでに起きていた。

膝の上に本を広げ、静かにページをめくっている。


「おはよう」


レオンが声をかける。

リシェルは顔を上げた。


「おはようございます。」


レオンは周囲を見回し、


「あいつは?」


リシェルは少しだけ視線を横に向けた。

レオンもつられてそちらを見る。

少し離れた場所でフィアが――


木に登っていた。


「……」


レオンは黙る。

リシェルも黙る。

フィアは枝の上で、何かを真剣にやっていた。


「むむむ……」


レオンは聞いた。


「なにしてるんだ?」


フィアは振り向いた。


「あ、おはようございます!」


満面の笑み。

次の瞬間、足が滑ったのか、


「きゃっ!?」


ドサッ。

レオンは顔を押さえた。


「お前さ……」


フィアは起き上がる。


「大丈夫です!」


「昨日もそれ言ってたな」


リシェルが静かに言う。


「また落ちた」


フィアは胸を張って、


「これは練習です!」


「何の?」


フィアは手の中の小さな宝石を見せた。


「宝玉魔法です!」


レオンは首をかしげる。


「宝玉?」


リシェルが説明する。


「エルフの魔術。魔法を宝石に蓄えて使う方式」


フィアは頷いた。


「そうです!」


そして宝玉を握る。


「見ててください!」


フィアは集中力を高め、


「えーと……フレイム!」


宝玉が光り、ボッと音を立てて爆発が起きる。

チリチリとフィアの前髪が焦げているが、本人は


「えへへ…まだちょっと調整が…」


と笑っていた。

レオンは苦笑し、ひどくポンコツだなと思った。


その時、グゥゥゥゥゥ……と、

音が鳴った。

フィアが顔を赤くし、


「……」


「腹か」


「違います」


が、もう一度鳴る。

グゥゥゥ……


「白状します!お腹減りました!」


「朝ご飯にしましょう」


焚き火を起こし、二人は朝ごはんの用意をし始めた。

二人を横目に見ながら、レオンは落ちていた枝を拾う。

そして小さく呟く。


「エンチャント」


枝が光った。


料理をしていたフィアがいつの間にか後ろで目を輝かせている。


「出た!!」


レオンが枝を焚き火に投げ入れると、火が一気に強くなる。


「便利!」


「おお!こんなこともできるのか。」


「空気中のマナと反応したのでしょう、火属性魔法の原点ですね。」


レオンは干し肉を炙りながら言う。


「エンチャント、だっけ」


リシェルは頷く。


フィアはパンをかじりながら、


「すごいですよね」


レオンは肩をすくめた。


「自覚ないけどな」


そんなレオンを見てフィアは真剣な顔で言った。


「レオンさん、それはきっと最強ですよ?」


「いやいや」


「だって昨日、枝で魔物倒してましたよ!?」


レオンはため息をついて、


「俺もびっくりしてるよ」



やがて食べ終わると、一番にリシェルが立ち上がった。


「そろそろ移動しましょう」


「どこへ?」


フィアが元気よく手を上げる。


「村があります!」


「なんで知ってる」


フィアはびしっと敬礼のポーズをとって、


「調査してたので!木の上で」


「ほとんど寝てましたけどね…」


「それは言わないで~!」



三人は森を歩き始めた。

朝の光が木々の間から差し込む。

夜とは違い、森は穏やかだった。

レオンはふと思う。


(パーティー……か)


今まで、何度もクビになった。

弱い魔法使い。

役立たず。

そう言われ続けた。

でも、昨日は枝で魔物を倒した。

リシェルがいっていた、エンチャント。

レオンはまだ信じられなかったが、何かしらの新しい風の予感を感じていた。



森が開けた。小さな村が見える。

畑。

木の家。

煙突から煙。


フィアが言う。


「着きました!」


村に入ると、村人がこちらを見た。

旅人は珍しいのか、

村人たちがちらちらこちらを見ていた。

その中の一人、年配の男が近づいてきた。


「冒険者かい?」


レオンが頷く。


「まあ」


フィアは元気に言う。


「はい!」


男は安心したような顔をして、


「よかった…。助かったのう…。」


リシェルが尋ねる。


「何かあったんですか?」


「森の奥に魔物が出てな…作物を荒らしていてな、魔物を追い払ってはくれぬか…?」


フィアは間髪入れずに元気よく言った。


「任せてください!」


「勝手に受けるな!」


村人は言う。


「討伐隊を呼ぶほどじゃないのじゃが、困っててな」


レオンは腕を組み、


「報酬は?」


男は言った。


「少ないが…銅貨十枚、村での食事も提供しよう。」


フィアが言う。


「やりましょう!」


リシェルも頷いた。


「実戦で魔法を調べたい」


レオンはため息をつく。


「決まりか」


フィアがぱあっと笑い、


「初めてのパーティー依頼ですね!」


こうして初めての依頼が始まった。



村を出てから、目的地につくまでそれほど時間はかからなかった。

畑の向こうに広がる森、

その奥が、村人の言っていた魔物の縄張りらしい。

フィアが小声で言う。


「ちょっと緊張しますね」


レオンは肩を回した。


「昨日よりマシだろ」


昨日は一人だった。

今日は三人だ。

それだけで妙に安心感がある。

リシェルが前を歩きながら言う。


「気をつけて、もう縄張り」


その時だった。

ガサッ。

茂みが揺れ、フィアがびくっとする。


「な、なに!?」


レオンが前に出る。

茂みの中から出てきたのは――

小さな魔物だった。

体長は犬くらい、緑色の皮膚、長い腕、ギザギザの歯。

フィアが指差す。


「ゴブリン!」


「なるほど」


ゴブリンが三匹。

キッキッと嫌な笑い声を上げている。

ゴブリンの一匹が石を投げてきた。

レオンは軽く避ける。


「さて」


レオンは地面の枝を拾った。

昨日と同じように、短く呟く。


「エンチャント」


枝が淡く光る。

フィアの目が輝いた。


「出ました!」


ゴブリンが突っ込んでくる。

レオンは踏み込んだ。

枝を振る。

ドン!!

一匹が吹き飛んだ。

木にぶつかり、そのまま動かなくなる。


「強い!!」


二匹目が飛びかかる。

レオンは横に避ける。

そして枝で突く。

バン!!

ゴブリンが腹に穴をあけて転がる。


三匹目が逃げようとする。


フィアが宝玉を構える。


「フレイム!」


ポンと音を立てて火弾がゴブリンの背中に当たる。


「ぎゃっ!」


リシェルが距離を詰め大きな盾で体当たりをした。

ゴブリンは吹き飛び、動かなくなった。


森が静かになる。

フィアが大きく息を吐いた。


「勝ちました!」


リシェルがゴブリンの死体を眺め、


「弱い個体ですね。」


レオンは枝を見た。

相変わらず見た目は普通の木の枝。

でも、魔力を流すと鉄みたいに硬くなる。


(ほんとに魔法なんだな)


フィアが言う。


「レオンさんやっぱりすごいですよ!!」


フィアは真面目な顔をして言う。


「普通の魔法使いは、枝でゴブリン倒しません」


ゴブリンの死体をいじっていたリシェルが戻ってきて言った。


「でも油断しないで」


リシェルは森の奥を見る。


「この程度なら村は困らない」


レオンは眉をひそめた。


「つまり?」


リシェルは言った。


「もっと強いのがいる」


その時だった。

森の奥から風が吹いた。


冷たい空気にフィアは震える。


「……なんか嫌な感じ」


レオンも感じた。

さっきのゴブリンとは違う気配。

森の奥から、低い音が響いた。


ドシ……

ドシ……


重い。

まるで大きな岩が歩いているみたいな足音だった。

フィアがこそこそと


「……今の音」


地面が震えている。

だんだんとこっちに来ているようだ。

リシェルが静かに呟く。


「来る」


次の瞬間。

森の奥の茂みが――


バキバキッ!!


派手な音を立てて弾け飛んだ。

木の枝が折れ、土が舞う。

そこから飛び出してきたのは――

巨大なイノシシだった。


「……でかいな」


レオンの口から思わず声が漏れた。

普通のイノシシとは比べものにならない。

体高は二メートル以上。

黒く硬そうな毛。

岩のような筋肉。

そして何より――


牙。


左右に伸びた巨大な牙が、刃物のように光っている。

フィアが声を震わせた。


「大きすぎません!?」


イノシシの魔獣は地面を掘った。

鋭い牙が土をいとも簡単に削る。

鼻から白い息を吐きながら、三人を睨んでいる。

リシェルが低い声で言った。


「フォレストボア…森に住む大型魔獣」


フィアが青ざめる。


「まさか…村の人が言ってたのってこれですか!?」


次の瞬間、フォレストボアが牙を向けて、真っ直ぐ突っ込んできた。


「来るぞ!」


レオンが叫ぶ。

三人は横に飛んだ。


ドォォン!!


さっきまで立っていた場所を、巨体が通り抜け、木にぶつかる。

バキィ!!


太い幹が折れた。

フィアが叫ぶ。


「木が折れました!?」


「見りゃ分かる!」


フォレストボアが振り向く。

赤い目が怒りで血走っている。

リシェルが叫ぶ。


「真正面は危険!」


フォレストボアが再び地面を蹴り、今度はフィアへ突進してきた。


「きゃっ!」


フィアが慌てて宝玉を握る。


「フレイム!」


ボッ!

小さな火球が飛ぶ。

しかし火が弾けただけで、ほとんど効いていない。


「効いてません!?」


レオンは近くの枝を拾う。


「エンチャント」


枝が光る。

フォレストボアが再び突っ込んでくる。

レオンは横へ回り込み振り抜いた。


ガン!!

枝が体に当たり、鈍い音が鳴る。

だが、フォレストボアは止まらない。


「硬っ!」


フォレストボアが振り向き、怒りの声を上げた。


ブモォォ!!


地面を蹴り、今度はレオンに向けて突進してくる。


「ちっ!」


レオンは地面の石を蹴った。


「エンチャント!」


石が弾丸のように飛び、フォレストボアの顔に当たる。

ドン!

頭にあたり、少し揺れた。が、止まらない。


「うおっ!?」


そこにリシェルが割って入る。


「フンっ!」


大きな盾を構えて受け止めようとする。


「くうぅぅ…!」


ズルズルと押されていくリシェル。


「リシェル!大丈夫?!」


フィアが駆け寄ろうとするが、リシェルはそれを


「こないで!危ない!」


と制す。レオンはリシェルに駆け寄ると、

リシェルの後ろから盾を押さえた。


その時、リシェルが言った。


「レオンさん、盾!エンチャントして!」


レオンは手を盾に向け、


「エンチャント!!」


魔力が流れ、盾が光る。


ズン……


空気が沈んだ。

リシェルの腕がわずかに下がり、力が入る。

フィアが目を丸くした。


「重くなってる!?」


「かなり」


リシェルは盾を持つ腕に力を籠め、足を踏ん張る。

しばらくフォレストボアも押そうとしていたが、

ついに、その巨体が止まった。

レオンが目を見開いた。


「止まった……!」


リシェルは歯を食いしばり、腕が震えている。

「重い……」


フォレストボアが、頭を振って盾から離れる。


「キャッ!」


重くなった盾を支えられずにリシェルは空中に投げ出される。

レオンは慌てて落ちてくるリシェルを受け止めた。


「大丈夫か?」


レオンが顔を覗き込むと、リシェルは顔を赤らめて頷き、


「あ…ありがとう…それより!エンチャントは武器にもうまく作用しそうね。」


と、まだ微かに光っている、倒れた盾を見て言った。


「まだ色々できそうだな」


レオンは笑いながらつぶやいた。

今度こそ駆け寄ってきたフィアが言う。


「ふたりとも!だいじょうぶ?!」


「ああ、大丈夫だ。それよりも…」


フォレストボアが怒り狂い、再び地面を蹴った。


だが今度は――


三人の方が、先に動いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ