時刻表で走る朝
朝の雨は、嫌いじゃない。
音があるからだ。
路面を叩く音。
ワイパーのリズム。
街が、少しだけ騒がしくなる。
静かな朝は、読みにくい。
だが雨の日は違う。
人は歩くのをやめる。
荷物を持った人間ほど、早くタクシーに乗りたがる。
乗る理由が、はっきりする。
八時台。
武蔵を流す。
ホテルの前に、キャリーを引いた外国人。
スマホを見ている。
Uber待ちだ。
ゆっくり寄せる。
視線が合う。
小さく頷く。
それでいい。
ドアを開けると、雨の匂いが入ってくる。
行き先は駅。
短い。
だが悪くない。
こういう一本は、ただの駅行きじゃない。
チェックアウトの流れだ。
ホテルを出た人間が、駅へ向かい始めている。
もう、次も動いている。
降ろして、すぐ戻る。
考える時間はない。
読むべきなのは、目の前の一本じゃない。
その先だ。
流れなんてものはない。
あるのは、時刻だ。
九時台。
頭の中にあるのは、時刻表だ。
九時十七分。
九時三十分。
金沢発の新幹線。
その発車時刻に合わせて、街は動く。
三十分じゃ遅い。
もっと前から、動いている。
移動の時間もある。
雨なら、さらに早い。
荷物があれば、なおさらだ。
発車時刻は、駅だけのものじゃない。
ホテルのロビーを動かし、
配車アプリを鳴らし、
街の判断を変える時間だ。
だから駅には張り付かない。
着いた先に居ても、意味がない。
客が動き出す場所へ戻る。
武蔵へ。
ホテルへ。
香林坊の変なホテル。
会社依頼。
外国人が乗り込んでくる。
また駅。
やはりな、と思う。
時計を見る。
まだ取れる。
九時十七分。
九時三十分。
波は一つじゃない。
発車時刻ごとに、細く来る。
駅は見る。
留まらない。
吸われるだけだ。
武蔵へ戻る。
ホテル野々の裏道。
五分だけ、見る。
まだホテル発が残っているのか。
もう終わったのか。
見るのはそこだ。
雨が、また強くなる。
いいな、と思う。
人は迷う。
歩くか、乗るか。
その迷いが、客になる。
しかも朝の雨は、
チェックアウトの客を急がせる。
濡れたくない。
遅れたくない。
なら、乗るしかない。
九時二十九分。
Uberが鳴る。
駅行き。
取り切ったな、と思った。
降ろして、エンジンの振動だけが残る。
街は、少し静かになっていた。
ピークは終わった。
読み通りだった。
その数字に向かって、
ホテルが動き、
客が動き、
街が動く。
俺は駅で待っていたんじゃない。
ホテルを出る、その時間を取りに行っていた。
ただ、それだけだ。




