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左にウインカー

タクシー稼業二日目

――一月九日・金曜日――

翌日から三連休を控えた朝だった。

八時の出庫を終えた俺は、どこを走ればいいのか決めきれないまま、ハンドルを握っていた。

出庫前、所長に聞いた。

「朝は、どこが良いですか?」

親切な人で、所長はいくつも可能性を挙げてくれた。

病院通い。

通勤。

通学。

午前中のキーワードは、その三つ。

具体的な地名として出てきたのが、旭町。

金沢大学が近くにあるエリアだ。

何もわからない俺は、考えるより先に体を動かすことにした。

言われた通り、旭町へ向かう。それだけだ。

なるわ営業所を出てすぐ、大樋町の信号を左折。

山側環状に乗り、トンネルをくぐる。

そして旭町へ。

走りながら、ふと思い出す。

――そういえば、初日にこのあたりでGOが鳴った。

淡い期待を胸の奥に押し込みながら、

山側環状と並行する道を、田上方面へ流す。

……鳴らない。

まあ、そうだ。

そんなに都合よくはいかない。

期待通りにいくほど、街は甘くない。

旭町を抜け、信号で止まる。

右に切れば小立野。

左に振れば、山側環状に戻る。

赤信号。

ハンドルの上で指を遊ばせながら、

何年か前に観たドラマのワンシーンが、ふと頭をよぎった。

人生の分かれ道に現れる、あのタクシー。

行き先ひとつで、未来が書き換わる話。

台詞も筋も、正直ほとんど覚えていない。

ただ――

交差点に立ち、

運転手が何も言わず、

こちらを待つあの空気だけが、妙に残っている。

――ああ、そうか。

タクシーって、

人を運ぶ仕事やと思ってたけど、

本当は、選択を運ぶ仕事なんやな。

信号が青に変わる。

俺は、左にウインカーを出した。

理由はない。

地図も、根拠もない。

ただ、

今はそっちの気がした。

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