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銀色は来た。ロングはまだ来ない。
昨日、犀川でサクラマスを釣った。
五年振りだった。
水面で跳ねた瞬間、
銀色が見えた。
「ああ、サクラや」
そう思った。
魚は嘘をつかない。
ルアーを通す場所が合っていれば、魚は食う。
昨日は、それが当たった。
銀色は、手に入った。
今日はハンドルを握っている。
金曜の夜。
雨。
街には人がいる。
だが、タクシーも多い。
片町スクランブル交差点 には、
鱗町 の方までタクシーが並んでいた。
ざっと五十台。
その列には、並ばない。
裏道を流す。
外周を回る。
GOも鳴る。
Uberも鳴る。
手も上がる。
結果も出ている。
四万五千円。
悪くはない。
でも――
軽い。
千円。
千四百円。
二千円。
魚は掛かる。
だが小さい。
釣りと同じだ。
ルアーを投げていれば、魚は釣れる。
だが本当に欲しいのは、
あの一本。
ロッドが曲がる魚。
ドラグが鳴る魚。
タクシーも同じだ。
回していれば、売り上げは積み上がる。
だが本当に欲しいのは、
ロング。
一万円を超える客。
昨日、銀色は来た。
だが今夜、
ロングはまだ来ない。
それでもハンドルは切り続ける。
魚も、客も――
いつ来るか分からないからだ。




