自分の腕だけ
3月4日。
前日の予報は、終日雨だった。
それを、少し当てにしていた。
正直に言えば、
ブーストを期待していた。
タクシーは、雨が降ると街が少しだけ優しくなる。
歩きたくない人間が増えるからだ。
だが朝、スマホを見たとき、ため息が出た。
昨日までの予報は、
終日、雨。
それが変わっていた。
曇り。
降水、0。
雨は来なかった。
今日は、
自分の腕だけで取るしかない。
街は静かだった。
人が少ない。
タクシーも、少ない。
ただし片町だけは別だった。
スクランブルを見ると、
空車のタクシーが並んでいる。
四方を見渡すと、
五十台はいるんじゃないかと思う。
客がいないわけじゃない。
タクシーが多すぎる。
こういう場所で並んでも、
順番はなかなか回ってこない。
だから並ばない。
裏を回る。
片町の裏道に入った。
店から客が出てきた。
タイミングだった。
片町から、
内灘鶴ヶ丘。
5200円。
表で順番待ちをしていたら、
まず取れていない一本だ。
客を降ろす。
そのまま片町へ戻る。
内灘からの帰り道、
武蔵に差し掛かったところで
GOが鳴った。
画面を見る。
武蔵発。
行き先は
野々市上林。
5400円。
片町から内灘へ走り、
その帰り道で、
次の客を拾う。
この二本は、
効率が良かった。
街は相変わらず静かだった。
GOは弱い。
Uberがたまに鳴る。
点で動く夜。
ポライオに戻り、
街を見て、また流す。
スクランブルは相変わらず
タクシーが多い。
並ばない。
裏を回る。
店から出てきた客。
住宅からのUber。
会社依頼。
派手なロングはない。
だが、
細かく積み上がる。
タクシーは、
ゼロを作らないことが大事だ。
メーターが回っているだけで、
それは前進だ。
夜は深くなった。
0時を過ぎると、
街は一度静かになる。
スクランブルを見る。
人は少ない。
谷の時間だ。
焦る必要はない。
こういう夜もある。
数字を見る。
23本。
44,740円。
俺なりの損益分岐点は
44,000円。
それは越えた。
雨は降らなかった。
ブーストもなかった。
それでも、
取り切った。
今日は、
自分の腕だけで取った。




