机上の一投・完璧だった(布団の中では)
二月二十六日、木曜日。
午前四時五十二分。
俺は布団の中で、完璧な軌道を描いていた。
金沢大学、一般入試二日目。
九時半開始。入室は九時まで。
本命は七時四十分から八時十分。
堀川新町。
チサン バジェット 金沢駅前 と
天然温泉 加賀の湧泉 ドーミーイン金沢。
駅周辺のホテル群。
受験生。
親同伴。
遅れられない朝。
角間キャンパスまで三十分。
雪はない。
路面は乾いている。
ルートも問題ない。
机上では、魚はすでに掛かっていた。
俺はまだ投げてもいないのに、
ランディングの絵まで見えていた。
完璧だった。
布団の中では。
七時台。
スーツケースは見える。
誰も手を挙げない。
七時五十六分。
ラジオが言った。
北鉄バス、金沢大学行き、臨時三十七本。
三十七。
俺は笑った。
机上のルアーが、水に触れる前に根掛かりした音がした。
魚は、バスに乗っていた。
七時台、ゼロ。
水は、俺の下を流れていった。
だが、流れは止まらない。
八時十二分。
Uberが鳴る。武蔵から駅。外国人。
八時四十八分。駅。
九時。南町。
九時三十三分。兼六園。
魚は受験生ではなかった。
外国人観光客。
出張客。
東京から来た合宿の水泳選手。
金沢プール。
広坂。
鈴見台。
本命を外した朝は、強い。
昼前。
市役所前で手が挙がる。
三重から来た受験生の親御さん。
「朝、バスがすごくて。遅れたら終わりですから。」
朝はバスに負け、
昼は受験生の親を拾う。
皮肉だが、悪くない。
夕方。
朝、金沢プールまで送った水泳選手が言っていた。
四時四十五分に練習終了。
だから、夕方、プールの横を通す。
朝、ホテルから送った。
だから、帰りも俺であってほしいと思った。
願った。
外した。
固執はしない。
中心に戻る。
浅野本町から駅。
また一本。
七時台ゼロの朝としては、悪くない。
布団の中で描いた完璧な一投は、
現実では空を切った。
だが、ボウズではない。
机上で勝ち、
現場で外し、
現場で立て直す。
それでもハンドルは握っている。
水面は静かだった。
だが、水の下は動いていた。
魚は、俺の思惑とは違う場所で泳いでいただけだ。
二月二十六日。
完璧に外して、
それでも勝負になった日。
滑稽で、
少しだけ格好いい朝だった。




