机上の一投
2月26日、木曜日。
午前四時五十二分。
まだ布団の中だ。
今日は、金沢大学 の一般入試二日目。
試験は九時半開始。入室は九時まで。
街は眠っている。
だが、水の下ではもう流れが動いている。
魚は見えない。
だが、いる。
俺は天井を見ながら、静かにポイントを組み立てる。
七時十五分、堀川新町。
チサン バジェット 金沢駅前 と
天然温泉 加賀の湧泉 ドーミーイン金沢。
駅東のホテル群。
県外の受験生が、静かに息を整えている場所だ。
角間キャンパスまではおよそ三十分。
受験生は八時半には着いていたい。
親は、それより早く着かせたい。
大学は告知している。
自家用車とタクシーでの送迎は自粛。
渋滞で遅れても救済はない。
それでも、水は動く。
本命の潮目は七時四十分から八時十分。
そこへルアーを通す。
どの道を使うかは、もう決めてある。
雪はない。路面は乾いている。
条件は悪くない。
だが、これはまだ机上だ。
水面は静かだ。
魚は跳ねていない。
それでも俺は、もうルアーを結び替えている。
受験生という本命。
だが、外道が掛かってもいい。
出張客でも、早朝移動でもいい。
魚は魚だ。売り上げになる。
狙うが、固まらない。
親は同伴するか。
する可能性は高い。
土地勘のない街。遅れられない朝。
もし親子を乗せたら。
「今日は長いですね。」
そこから空気を読む。
角間は山だ。
待つ場所は多くない。
「戻られますか?」
送りだけで終わらない流れ。
一本が二本になる可能性。
まだ何も起きていない。
それでも、勝負は始まっている。
ルアーは選んだ。
ラインも結んだ。
七時出庫。
これはまだ、水面に触れていない一投。
机上で描いた軌道を、
現実の流れに重ねにいく朝だ。




