三度目の名前
ドラマみたいな奇跡が起こった。
物語は、まだ終わっていなかった。
15時30分。
月中の月曜日。
大きな収入は見込めない。
休み休み、ぼちぼち。
それが、今日のテーマだった。
県庁のまわりを、ゆっくり流す。
急がない。
追わない。
裏通りで車を止め、スマホを開く。
GOアプリを見ると、
西側の大通りにGO搭載車が固まっている。
――まあ、そうだろう。
当たり前の景色だ。
だから俺は、
当たり前のように、東側へズレた。
15時43分。
GOが鳴る。
この時間に鳴るだけでもラッキーなのに、
画面を見た瞬間、思わず声が出そうになった。
……まただ。
さすがに一日に三度も同じ名前が並ぶと、
嫌でも覚えてしまう。
喫茶店の前。
表のベンチに、彼女はいた。
大きな買い物袋を抱えている。
目が合う。
一瞬の間。
それから――
お互い、笑ってしまった。
俺は少し照れながら、
それでも自然に、こう言った。
「お帰りなさい、イガリ様」
彼女を車内に迎え入れると、
会話はもう、説明なんていらなかった。
自然と、話題はお腹の子どものことになる。
生まれるのは、
5月1日。
日にちを聞いた瞬間、
胸の奥で何かが、静かにほどけた。
一日に同じ人を三度乗せることなんて、
この先、ほぼないだろう。
数字で見れば、
大した金額じゃない。
特別なロングでもない。
それでも――
この一日は、確かに特別だった。
彼女と、
これから生まれてくるその子と、
その家族の幸せを、
俺は心から願った。
タクシーは人を運ぶ。
でも時々、
人生の節目を、ほんの少しだけ共有する。
そんな日が、
たまにある。
そして今日が、
まさにその日だった。
――物語は、まだ続く。




