静かな勝ち方
2月19日。
給料日前の木曜日。
弱い日だと、最初から分かっていた。
だから一昨日、公休日を返上して走った。
今日、焦らないために。
締め日は明日。
だが、走れるのは今日だけだ。
目標は、今日の一本目で越えた。
追われていない夜は、静かだ。
朝は退屈だった。
出庫から一時間半、ノーバイト。
空は今にも崩れそうなのに、最後の一滴が落ちない。
街は動いているはずなのに、
俺のメーターだけが止まっていた。
それでも7:33、GOが鳴った。
泉野から押野。
押野の北陸製菓へ向かう、出勤の女性だった。
そこで肩の力が抜けた。
焦りが消えた。
発の時間に、発の場所にいる。
その意識だけは、手放さなかった。
夕方、街を一周した。
兼六園。
東山。
近江町市場。
香林坊。
人はいる。
でも歩いている。
歩ける日は、歩く。
タクシーは、発を待つ仕事じゃない。
発を取りに行く仕事だ。
そう思いながら、ハンドルを握った。
夜も、崩れなかった。
片町で点を拾い、
住宅地で回転をつなぐ。
乗ってくれたほとんどのお客様が、
笑って降りていった。
セブンイレブン矢木2丁目店から駅へ向かった二人に、
「出会えて良かった」と言われた。
あれ以上の報酬は、ない。
23時を過ぎても、焦りはなかった。
あと1本で20本。
でも、追わなかった。
幸町の裏道でGOを待ち、
鳴れば拾い、
鳴らなければ動く。
片町で、反対車線にいた客に気づき、
窓を開けて声を掛けた。
自分で取った一本だった。
0:37、駅前。
GOは鳴らない。
人もまばら。
堀川新町を一周して、俺は撤退を決めた。
追わない。
削られない。
それも営業だ。
弱い日だったと思う。
それでも、崩れなかった。
焦らなかった。
締め日は明日だが、
今日の一本目で、もう勝負はついていた。
俺一人の仕事じゃない。
無線を取る人がいて、
整備する人がいて、
会社があって、
今日も俺は走れている。
売上は俺だけのものじゃない。
それでも、ハンドルを握るのは俺だ。
だから、雑には走れない。
朝は今にも崩れそうな空だった。
それが夜には、すっかり晴れていた。
雲は流れ、
街の上には澄んだ空が広がっている。
満足だった。
弱い日に、良くやった。
静かな勝ち方だった。
エンジンを切る。
2月19日は、悪くなかった。




