ゆめのゆの待機場
ゆめのゆの待機場。
1/3、先頭。
俺はここから客が出ないことを、最初から知っていた。
だから期待していたのは、
ゆめのゆじゃない。
GOの、気まぐれだ。
14時53分。
静けさを切り裂くように、GOが鳴る。
示野イオン。
――さっきのお客さん、
「これから示野イオンに行く」って言ってたな。
嫌な予感じゃない。
胸の奥が、ほんの少しだけざわつく感じ。
GOの詳細を見る。
同姓同名。
もしかして、と思う間もなく、
その「もしかして」は、
現実のほうから近づいてきた。
示野イオンでドアを開けると、
さっきと同じ人が、そこにいた。
偶然だ。
でも、偶然にしては出来すぎている。
藤江北の西松屋まで。
走り出して、少し間が空いたところで、
何気なく聞いた。
「お仕事は、お休みですか?」
「はい、今は産休中なんです」
声が、柔らかい。
守るものを持った人の声だ。
「女の子なんです」
その一言で、
車内の空気が変わった。
「絶対、可愛い子になりますね」
考える前に、言葉が出ていた。
営業トークじゃない。
計算もない。
その瞬間、
彼女の表情が、ぱっと明るくなった。
本当に嬉しそうに、
少し照れながら、笑った。
たった1,100円の距離。
だけど、
今日いちばん温度のある1本だった。
藤江北の西松屋でドアを閉める。
静かになった車内で、俺は思う。
昼の街は嘘をつく。
でも、人は嘘をつかない。
GOは数字を運んでくる。
だけど時々、
こういう“物語”も、運んでくる。
俺はまた、エンジンをかける。
この街で走る理由は、
稼ぎだけじゃないと、
今ははっきり分かっている。
――続く。




