13日の金曜日
2月13日。金曜。
13日の金曜日。
バレンタイン前夜。
街は浮かれているはずだった。
片町。
スクランブルは人で溢れ、タクシーは鱗町方面まで三百メートル、アホみたいに連なっていた。
カップルは思ったほど多くない。
代わりに、お姉ちゃん達が必死に男を呼び込んでいる。
甘い夜のはずだ。
だが車は多すぎる。
22時台はゼロだった。
あの一時間は重い。
数字が動かない時間は、胸の奥を静かに削る。
それでも焦りはなかった。
来る時は来る。
来ない時は来ない。
水モンだ。
折れることとは、別の話だ。
1:20。
待機だらけのスクランブルで、俺に手が挙がった。
諸江まで2800円。
富士タクシーのチケット。
選ばれた、という小さな優越感。
勝ちではない。
だが、悪くない。
片町にベタ付けはしなかった。
山側へ逃がそうと鼻先を野々市へ向けた瞬間、白菊でヒット。
駅へ流した瞬間、北安江からGO。
止まっていたら当たらない。
動いていたから触れただけだ。
2:59。
駅港口を回したところで、最後の一本が鳴った。
締めまであと四日。
給料日前。条件はこれから悪くなる。
今日GOを拾い続けたこと。
順位が上がるかもしれないこと。
目先の三千円より、そっちの方が大事だ。
最終的に25本。
掲げた6万円には届かない。
俺より稼ぐ奴はいくらでもいる。
それでも今日は崩れなかった。
爆発もない。
崩壊もない。
普通。
それだけだ。
帰り道、GOは切らない。
鳴れば取る。鳴らなければ帰る。
金沢の夜は、いつも少しだけ冷たい。
13日の金曜日。
何も起きなかった。
それでも俺は、普通に戦った。
それで十分だ。




