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通り過ぎる

2002年、函館2歳ステークス。

三連複を当てた。

機械に馬券を入れたら、横の扉が開いた。

「こちらへ」と言われた。

通されたのが別室だったのか、

カウンターの奥だったのか、

そこは曖昧だ。

覚えているのは、

帯付きが十三本あったこと。

その横に、

帯のない札束が数十枚。

正確な枚数は覚えていない。

机の上が札で埋まっていたことだけ覚えている。

札の匂いと、

やけに静かな空気を覚えている。

その金でミニクーパーを買った。

行きつけの店で、客全員分を払った夜もある。

「すげえな」

「やるやん」

中心に座らされ、

肩を叩かれ、

酒を注がれた。

気持ちよかった。

あれは金の量じゃない。

視線の量だった。

それからしばらく、

頭の中は勝ち負けで出来ていた。

結婚適齢期だった。

周りは家庭を持ち、

俺は馬柱を見ていた。

寝ても覚めても、

次のレースのことを考えていた。

後悔しているかと聞かれれば、

たぶん、していない。

あれも俺だ。

ルアーフィッシングを始めたきっかけは、

北海道のロッドメーカー、フィッシュマンの動画だった。

代表の赤塚さんが話しているのを見た。

楽しそうだと思った。

それだけだ。

川に立った。

ボウズの日もあった。

朝から立って、何も起きない日がある。

ゼロは、地味に削る。

その帰り道、寄ったこともある。

取り返したかったのは金じゃない。

手応えだった。

今はタクシーに乗っている。

パチンコ屋の前を通ることがある。

ハンドルを握ったまま、ほんの数秒だけ速度が落ちる。

やろうかな、と浮かぶことはある。

でも通り過ぎる。

タクシーで稼いだ金は、

朝の判断と、空振りと、

時合と、ロングの積み重ねだ。

あの機械に入れたくない。

客が降りるとき、

笑顔で「ありがとう」と言われる。

帯十三本より軽い言葉だ。

でも今は、そっちの方が重い。

あの頃は、

金で中心にいた。

今は、

ハンドルの向こう側で誰かを目的地に届けている。

誇りがある。

勝ち負けじゃなく、

一日を作っている感覚に。

人格は、遠回りで出来るらしい。

俺はそう思っている。

今日もまた、

通り過ぎる。

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