駅に立つラストマン
13時を過ぎたあたりから、
町は急に静かになった。
正確には、
鳴らなくなったわけじゃない。
鳴る気配が、消えた。
観光地には人がいる。
兼六園にも、東山にも。
でも、仕事にならない。
歩ける距離は歩く。
待てる人は待つ。
タクシーは、選ばれない。
本多町のLAWSONの駐車場で、
車を止めた。
時計を見る。
13時台。
ここが一度、谷になるのは知っている。
前半が出来すぎていたぶん、
今日はここまでかもしれない。
そんな気持ちが、一瞬よぎる。
それでも、
ポツポツと仕事は入る。
ただ、
流れは戻らない。
15時前。
ふと、思い出した。
金沢サムライズ vs 東京ユナイテッドバスケットボールクラブ。
14:00 tip-off。
B3リーグ。
スマホを確認する。
試合終了は、16時。
この試合のメインスポンサーは、
富士タクシー。
――うちの会社だ。
先日、Slackに流れていた投稿が頭をよぎる。
「富士タクシーグループの社員および家族を、
試合にご招待させていただきます」
試合は、16時に終わる。
場所は、いしかわ総合スポーツセンター。
――16時。
その数字を起点に、
人の動きが浮かぶ。
試合が終われば、
人は一斉に外へ出る。
駐車場は混む。
雪の残る歩道を、
家族連れが歩く。
列ができる。
帰路につく。
その中に、
タクシーを選ぶ人間が,
いないはずがない。
もし、
その時間に。
その場所の近くに。
自分の車があったら。
GOが鳴るかもしれない。
会社依頼が入るかもしれない。
確証はない。
ただ、
そういう絵が、
一瞬で頭の中に出来上がった。
稚日野。
いしかわ総合スポーツセンターのすぐそばに、
あそう自動車商会がある。
高校時代、
自転車競技部で一緒だった朝生の店だ。
俺は車を走らせ、
その店に向かった。
顔を出し、
事情を話す。
試合が終わる時間まで、
少しのあいだ、
ここに車を置かせてほしい。
判断は、
もう固まっていた。
勝負は、
16時05分から16時20分まで。
そう踏んだ。
スマホのタイマーを、
20分にセットする。
シートを倒し、
待った。
16時16分。
会社依頼が入る。
いしかわ総合スポーツセンター裏。
三台口。
サムライズ。
タイマーは、
まだ鳴っていなかった。
俺は、
賭けに勝った。
16時30分。
予約。
時間になったら、
メーターを上げるだけだった。
正面玄関を通り、
裏へ向かう。
正面には人が溢れていた。
何台かのタクシーも、見えた。
俺は、
そのまま裏に回った。
裏に着くと、
三台口の残り二台と合流する。
隣のドライバーが、
ちらっとこちらを見た。
「選手ですか」
少し間があって、
相手が、うなずいた。
裏口から、
体の大きな男が三人出てきた。
迷いなく、
俺の車に向かってくる。
相手チームの選手だった。
昨日は勝って、
今日は負けた。
引きずってはいない。
ただ、
少しだけ悔しさが残っている。
そんな空気だった。
金沢駅まで。
車内では、
リーグの話が続いていた。
あのチームは勝った、
あいつはリバウンドを何本取った。
――すげえな。
俺は、
何も言わなかった。
ここで口を挟めば、
この空気は壊れる。
そう思った。
普通に走って、
普通に駅へ向かう。
駅に着くと、
一人が言った。
「ありがとうございました」
やっぱり、
アスリートだと思った。
ドアが閉まる。
次は、
誰が乗るか。
それは、まだ分からない。
でもこの場所には、
まだ一台、残っている。
俺だ。




