ラストマン・イン・金沢
2月8日(日曜日)
8時出庫に合わせて、
5時30分にアラームをかけた。
一度、目は覚めた。
15分スヌーズ。
次に見た時計は5時49分。
のんきが、俺より先に布団を出ていった。
6時56分、家を出る。
積雪は十五センチ。
会社に着けば、
屋上の434号車は埋まっているかもしれない——
そう思った。
走り出して気づく。
民家の駐車場に並ぶ車を見る。
ボンネットには雪が積もっている。
だが、想像していたほど酷くはない。
数字と体感は、いつも少し違う。
7時48分、出庫。
町の様子を見るために回る。
駅、武蔵、香林坊、片町。
8時01分の駅は閑散。
タクシープールは十台。
ここじゃない。
そう判断して、武蔵を見ると決めた。
8時08分。
武蔵。
人は少ない。
——と思った直後、GOが鳴る。
ホテル発、駅まで1100円。
町は静かでも、
決断はもう動いていた。
駅を出て最初の信号待ち。
GOが鳴る。
本町からの呼び出し。
白山イオンモールまで4400円。
いい距離だ。
降ろしたら戻す。
張らない。
切らない。
点だけを拾う。
9時台は、しばらく無音が続く。
だから、本命を見据える。
南町のホテル街。
9時16分、寺町。
会社依頼。
点に残った仕事は、
だいたい、こういう形で現れる。
10時台に入ると、街が変わる。
20代の観光客のカップルが目立ち始めた。
短距離が多い。
それでも切れない。
賃走中なのに、手が挙がる。
一度、二度、三度。
11時を過ぎても、流れは切れない。
尾山町から駅、1400円。
ホテル野々の横で五分待機。
鳴らなければ即切り、移動。
そう決めた瞬間に、鳴る。
十間町から片町、
ホテルアマネク経由で、
駅まで2400円。
ホテルから駅へ。
そんな依頼が、八本続いた。
12時。
もう一度だけ、野々横。
鳴らなければ、
自宅に戻って休憩するつもりだった。
それでもGOは切らない。
とにかく駅に送る客が多い。
日曜日で、タクシーの数は少ない。
需要が、供給を上回っている。
依頼が途切れない。
今日の金沢は、
観光の終わりが駅に集まっている。
観光客が金沢に着いたとき、
最初に会うのは、俺たちタクシードライバーだ。
そして観光を終え、
最後に駅へ向かうとき、
送り届けるのも、俺たちだ。
ふと、福山雅治の
『ラストマン ―全盲の捜査官―』を思い出す。
事件の最後に立ち、
責任を引き受ける男。
金沢で、
観光客を最後に駅まで送る。
俺も、
ある意味ラストマンだ。
そんな考えが、
頭をよぎった。




