撤退、GOはオンのまま
23時49分。
野町。
エンジン音だけが、やけに大きく聞こえた。
今日は、負けだ。
綺麗事を並べても、数字は変わらない。
650,000円という目標に対して、
落としてはいけない一日を、落とした。
それは事実だった。
雪は降らなかった。
予報どおりにはいかなかった。
片町は一次会で終わる客ばかりで、
二次会に流れる気配は、最後まで戻らなかった。
鳴る月じゃない。
そういう月があることは、もう知っている。
それでも――
俺はGOを切らなかった。
撤退はした。
だが、席は立っていない。
「鳴らぬなら、鳴るまで待とう」
そう思っていたわけじゃない。
ただ、
可能性をゼロにする行動だけは、取りたくなかった。
鳴らない街。
当たらない読み。
それでも、
一日中、俺は当たらない場所から、外れ続ける判断を選び続けていた。
17時31分。
突然、流れが変わった。
10連チャン。
短距離。
片町行き。
ポライオに戻るたび、GOが鳴った。
街がくれた、たった一度のご褒美。
それを、俺は取り切った。
だが、それでも足りなかった。
本数は積めた。
判断も間違っていなかった。
事故もなく、焦りもなかった。
それでも、
数字だけが届かなかった。
それが今日だった。
23時49分。
撤退。
0時00分。入庫。
エンジンを切ったあと、
俺は一度だけ、スマホを見た。
GOは、まだオンのままだ。
ほっといても鳴る月が、きっとある。
花見の時期。
夜が緩み、人が外に出る月。
その月に、
最大限、取りに行くために。
今日は、抗った。
負けたことを認めて、
それでも、最後まで足掻いた。
負けだ。
でも、席は空けていない。
――それでいい。
明日も、
俺は走る。




