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丑三つ時の判断
二月六日。
丑三つ時。
布団の中で、
目は閉じている。
眠ってはいない。
暖房の切れた部屋は静かで、
遠くを走る車の音だけが、
ときどき壁を抜けてくる。
今日の街を、
もう一度なぞっていた。
きっかけは、
スマホで見たタイミーの募集だった。
東山の不室屋。
昼だけ、ホールスタッフ。
観光客が来る時間を、
もう計算に入れている店。
ホテル野々。
朝だけ、洗い場。
昨夜から人が泊まり、
朝食の皿が積み上がる。
フォーラスの中の飲食店。
昼の四時間だけ人を足す。
買い物をして、
そのまま昼を食べる人たち。
人は来る。
確実に来る。
だが、
タクシーは
まだ要らない。
どうやって来たか。
どうやって帰るか。
そこを見るだけで、
答えはほぼ出ていた。
観光バスがいれば切る。
若い客層は追わない。
車で来る箱は、
昼は捨てる。
人の多さじゃない。
移動の手段だ。
布団の中で、
街を走っている気がした。
エンジンは掛かっていない。
それでも、
判断だけは
前に進んでいた。
五十五になる。
たぶん、
人生でいちばん楽しい。
街は眠っている。
だが、
俺の仕事は、
もう始まっていた。




