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名刺を置く夜

野々市のポカポカ湯で身体を温めてから、

俺は菊川のポライオに向かった。

アイスコーヒーで喉を潤し、

イカ墨のリゾットを頼む。

この店では、そういう選択が自然にできる。

辰郎とは、もう二年近い付き合いになる。

俺がタクシードライバーになったことも、

仕事でチャッピーを使っていることも、

今さら説明はいらない。

「名刺、作ったんだよ」

QRコードのついた名刺を置き、

トイレに置かせてほしいと頼んだ。

辰郎は少し考えてから、

「いいですよ」

と答えた。

その言い方が、

思っていた以上に胸に残った。

話は自然とチャッピーの話になる。

俺は少し熱心に話しすぎた。

途中、辰郎が眠そうに見えて、

それが可笑しかった。

辰郎は、

肯定も否定もせず、人の話を聞ける。

だから、この店は居心地がいい。

カズミさんが通う理由も、

きっと同じなんだと思う。

その時、カップルが入ってきた。

俺は辰郎に目で聞いた。

名刺を渡してもいいか、と。

少し困った顔のあと、

辰郎はうなずいた。

「いきなりごめんなさい」

そう言って名刺を渡す。

二人は驚きながらも、

その場で画面を開き、

少し読んで、笑った。

宣伝の気持ちがなかったとは言わない。

でもそれ以上に、

この時間が、

少しでも良いものになればと思っていた。

20時30分を過ぎ、

俺は席を立つ。

「ごゆっくり」

二人は、

「おやすみなさい」

と返してくれた。

家に帰り、

俺はその夜のうちに

「その正しさは、金にならない」

を書き上げた。

そして辰郎に電話をする。

さっきのカップルは、まだいるか。

いる、とのことだった。

最新話を投稿したと、

それだけ伝えてほしいと頼んだ。

全部、俺の独断だ。

でも、

ポライオで過ごしたあの時間が、

少しでも良い夜になっていたらいい。

そう思っていたのは、

紛れもない事実だった。

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