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雨上がりじゃない夜空に

一月三十日、金曜日。

雪。

隔日勤務、三勤一休。

今日は、その「一休」に当たっている。

金曜日で、この雪だ。

街の事情が、手に取るように分かる。

学校は休校になるかもしれない。

でも、社会人はそうはいかない。

明日から土日。

二日分の用事を、今日に詰め込まなきゃならない人間がいる。

出勤しようとして、

自分の車が駐車場で雪に埋まっていたら。

除雪する時間がなければ、

人はタクシーを選ぶ。

薬が切れた人もいる。

病院は土日は休みだ。

今日、行かなければならない。

夜になれば、

片町の灯りは消えない。

夜の女たちも、きっと出てくる。

メイクして、髪を整えて、

それでも長靴を履くわけにはいかない。

――黒服をやっていた俺は、それを知っている。

昨日、Instagramで

スナック加賀が

「大雪のため木曜日は休業」と出していた。

そして今日は、

「金曜日は営業します」と。

そんな店が、

今夜の片町には、

いくつもあるはずだ。

今日は本来なら、

俺たちタクシードライバーにとって

最高の日のはずだった。

人は、晴れた日が好きだ。

俺だって、そうだ。

でも、

ハンドルを握る時は別だ。

俺たちにとって、

晴天は土砂降り。

土砂降りこそ、晴天だ。

雪が積もる今日。

これ以上ない“晴天”。

なのに俺は、

公休日という理由だけで、

発車できない。

ラジオも、エンジン音もない夜。

いや、夜と呼ぶには、もう遅すぎる。

4時44分。

空が白み始める一歩手前。

一日が終わる人間と、

これから始まる人間が、

すれ違う時間だ。

本来なら、

この時間、俺はハンドルを握っていた。

そう思いながら、

俺はスマホを手に取る。

休みの日の、この時間に、

ウェザーニュースを開いている。

雪は、まだ降る。

風は、弱まらない。

――このあと、鳴るな。

――この雪なら、絶対に動く。

もう走っているつもりで、

そんな予想をしてしまう。

走れないと分かっていても、

考えるのをやめられない。

これが、

タクシードライバーの

職業病なのかもしれない。

雪の金曜日。

街は確実に、

タクシーを必要としている。

それなのに今日は、

俺は動けない。

頭の中で

RCサクセションの

「雨上がりの夜空に」が流れる。

♪こんな夜に

♪お前に乗れないなんて

あの歌は、

恋の歌みたいで、

本当は

“必要とされているのに、そこにいられない夜”

の歌だ。

走りたいのに、走れない。

応えたいのに、応えられない。

タクシーは、

止まっているだけの鉄の箱だ。

走っていない俺は、

ただの男だ。

雪は、まだ降っている。

街は、確実に呼んでいる。

それでも今夜、

俺は発車できない。

悔しさだけが、

胸の奥で

エンジンみたいに

空ぶかしを続けている。

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