GOの攻略
幸町のバス停前。
俺は、車を止めた。
車内で、
GOのモバイル画面を開く。
219位 / 971人中。
了解数 89回。
了解率 93.1%。
改めて、
この数字の意味を考える。
――219位。
単純に割れば、
上位およそ4分の1。
25%の位置だ。
悪くない。
少なくとも、
底を這っている数字じゃない。
だが、
俺の稼働日数は、まだ十三日だ。
しかも、
本来なら一番稼ぎやすいはずの
月初め七日間を、
丸ごと削った上での数字でもある。
――つまり。
これは、
ものすごい数字なんじゃないか。
そんな考えが、
ふと頭をよぎる。
先日、帰社後のことだ。
先輩ドライバーが、
何気なく言った。
「今日、GO全然鳴らなかったね」
俺は、少し意外に思った。
働き始めて間もない俺には、
まだ“基準”がない。
多いのか、少ないのか。
それを測る物差しを、
まだ持っていない。
だが――
俺の感覚では、
「全然」じゃなかった。
確かに、
ひっきりなしに鳴ったわけじゃない。
だが、
沈黙ばかりでもなかった。
疑問に思った俺は、
GOの順位について尋ねた。
「これって……
なんなんですか?」
先輩は一瞬、
言葉を探すように目を泳がせた。
「うーん……
まあ、
上の方が有利なのは確かやね」
それだけだった。
改めて、
俺は数字に目を戻す。
219位。
了解数 89回。
了解率 93.1%。
――93.1%。
なぜ、
100%じゃない?
思い返してみる。
GOと、
会社依頼が重なった時。
手を挙げたお客様と、
GOが鳴るタイミングが
ほぼ同時だった時。
記憶にあるだけで、
三回。
俺は、
GOを“了解”できなかった。
取れなかった、
というより、
取らなかった。
いや、
取れなかった、でもある。
そして、
もう一つ気づく。
了解数――
89回。
100回にも満たない。
それなのに、
上位25%。
――おかしい。
本数だけを見ているなら、
この順位は説明がつかない。
じゃあ、
何を見ている?
俺は、
自分のスマホを取り出した。
GOのアプリを立ち上げる。
画面に、
現在地が表示される。
小さなアイコン。
そして――
同じ場所に、
俺のタクシーのマーク。
重なっている。
――あ。
そこで、
ようやく腑に落ちた。
先日、
自分がGOを使った時のことを思い出す。
目的地に着いたあと、
スマホに表示された評価画面。
タクシーの評価。
星の数。
五段階。
迷わず、
一番右を押した。
理由は、単純だった。
早かった。
静かだった。
不安がなかった。
会話があったわけでもない。
特別なことをしてもらったわけでもない。
ただ、
何も引っかからなかった。
その時、
俺は運転手の順位なんて知らない。
了解率も、
本数も、
何ひとつ見ていない。
見ていたのは、
結果だけだ。
「このタクシーで、よかったか」
それだけ。
俺が、
すべての客から
星五つをもらえるなんて、
そんなおこがましいことは思わない。
だが、
胸にしまっている言葉はある。
かつて、
日本一と言われたドライバーから
聞いた言葉だ。
――全てのお客様を、幸せにする。
それは、
派手なサービスじゃない。
笑わせることでもない。
無事に。
静かに。
不安なく。
その人の一日を、
少しだけ楽にすること。
タクシーを降りる際、
本当は
こちらが
「ありがとうございました」と
言う立場なのに、
笑顔と一緒に
「ありがとう」を
何度も受け取ってきた。
その積み重ねが、
この数字になっているなら。
再び、
俺はスマホに目を戻す。
マップを、
指で縮尺する。
片町には、
大量のタクシーのアイコンが
停止している。
そこへ、
香林坊方面から来たタクシーが、
さらに加わっていく。
アイコンを見つめながら、
一つの仮説が浮かんだ。
GOの「呼び出し」は、
点じゃない。
線でもない。
おそらく――
円だ。
客のいる場所を中心に、
信号は円状に広がる。
近い車から、
順に選ばれる。
そう聞いていた。
だが、
それだけだろうか。
――なら、
この順位は、
何のためにある?
上の方が有利。
つまり、
同じ場所にいるなら、
順位が高い方が
先に信号を受け取れる――
そんな仕組みなんじゃないか。
俺は、
まだ確信には至っていない。
だが一つだけ、
はっきりしたことがある。
GOは、
運だけの世界じゃない。
走り方。
止まり方。
選ばれ方。
そして――
選ばれたあとの、
一つ一つの積み重ね。
攻略とは、
裏技じゃない。
毎回、
「このタクシーでよかった」と
思われるかどうか。
その結果が、
静かに、
順位になって現れている。
俺はエンジンをかけた。
次に鳴るのが、
いつかは分からない。
だが、
鳴った時に
選ばれる理由なら、
もう分かっている気がした。




