第二話
『緊急事態発生!魔導兵部隊は直ちに出撃せよ!繰り返す――』
駐屯地の廊下に張り巡らされた警告灯が、血のような赤色に明滅する。
「アリア!俺たちも行かないと!」
カイルの切迫した声に、アリアは反射的に頷いた。だが、背後から飛んできた鋭い怒声が二人の足を止めた。
「カイル!アリア!お前たちは下がってろ!!」
振り返れば、ユリウスが重厚な足音を立てて自機へと駆け寄っていた。その後ろには、すでに険しい表情を浮かべたセラも続いている。
「新兵は退避準備!誘導に従って速やかに退避しなさい!」
セラは吐き捨てるように言うと、愛機である狙撃型魔導甲冑に飛び乗った。
「まったく、なんであんな奴らが、こんな辺境まで来てるのよ……っ!」
ハッチが閉まる直前、彼女の漏らした声は明らかに震えていた。
「セラ、援護を頼む!相手は帝国の『黒曜三刃隊』だ……。一瞬でも気を抜けば魔導核を持っていかれるぞ!」
ガルド帝国が誇る、変則三機編隊。
猛烈な速さで突進し、敵の陣形を切り裂く二機の近接型。その混乱に乗じ、死角から確実に心臓部を撃ち抜く一機の狙撃型。彼らが通った後には、機体の残骸すら残らないと言われている。
戦場に、漆黒の機体から発せられた不敵な笑い声が通信波を伝って響いた。
「情報通り、ネズミ一匹逃げ場のないボロ基地じゃあないか!雑魚どもなんて蹴散らして、とっとと落とすよ!」
「わかってるさ、マルセラ。リュカ、撃ち漏らすなよ?」
「…………」
リュカと呼ばれた男は答えない。代わりに、彼の持つ魔導狙撃銃が青白い火花を散らした。
直後、ユリウスに続こうとした友軍の白い機体が、胸部の魔導核を正確に撃ち抜かれ、内側から激しく爆発四散した。
ユリウスは数機の部下を引き連れ、黒い近接機二機を包囲しようと果敢に肉薄する。
「俺の班で囲む!セラ、奥の狙撃手を叩けるか!?」
「狙えるけど……っ、くそ、敵が多すぎて狙点を絞れない!」
セラの周りにも敵の随伴機が群がり、彼女自身も魔導剣を抜いて応戦せざるを得ない。本来の役割である狙撃に集中できないのだ。
その隙に、黒曜三刃隊の二機が「速さ」でユリウスの班員たちを翻弄していく。
「遅いよ、王国の兵隊さん!」
黒い機体が閃光のように走り抜け、白い機体が次々と破壊されていく。
「くそっ……帝国の戦闘狂共め……!!」
目の前で部下を削り取られ、ユリウスの悲痛な叫びが戦場に虚しく響いた。
退避路へ向かおうとしていたアリアは、震える手で自分の胸元を握りしめた。逃げなければならない……でも……。




