第一話
王都の洗練された街並みとは対照的な、乾燥した風が吹き抜ける。
それから数日。アリアたちの所属する『灰翼中隊』は、北方の辺境にある駐屯地へと派遣されていた。
「チッ……なんで俺らの中隊が、こんな掃き溜めみたいな場所に配置されなきゃならねぇんだ」
詰め所の軒下で、ユリウスが吐き捨てるようにボヤいていた。
「仕方ないでしょ。うちには新入りが二人も入ったんだから。まずは戦闘の激しくない場所で実戦に慣れろっていう、上層部なりの配慮よ」
応じるセラの声にも、どこか諦めが混じっている。
「それならお前の班だけで十分だろ。中隊長だって、別任務とかでまだ戻ってこねぇしよ……」
「……あの人が最近単独行動ばかりなのは、今に始まったことじゃないわ。私たちが何を言ったところで、軍令は覆らないわよ」
ユリウスは大きくため息をつくと、セラと別れて自室へと戻っていった。
二人のやり取りを、アリアは物陰で身を潜めるようにして聞いていた。
(……私のせいだ。私が、まだ一人前じゃないから)
兄の死の真相を追うために軍に入った。けれど、今の自分はまだ、仲間を辺境の退屈な任務に巻き込むだけの「お荷物」でしかない。
アリアは意を決して、背を向けていたセラの前に姿を現した。
「あ、あの……ごめんなさい。私のせいで、皆さんに不便な思いをさせて……」
オドオドと頭を下げるアリア。セラは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに呆れたような溜息を吐いた。
「何謝ってるのよ。ここへの派遣を決めたのは上の連中。あんた一人が責任を感じるなんて、自意識過剰もいいところよ」
突き放すような言葉。けれど、そこにはセラなりの不器用な気遣いがあった。
「……ほら、そんな暇があるなら、出撃に備えて兵器庫の場所を確認しておきなさい。この駐屯地は迷路みたいに複雑なんだから」
「は、はい……!」
アリアが兵器庫へ向かって歩き出すと、背後から賑やかな足音が追いかけてきた。
「よぉ、アリア!今から兵器庫か?奇遇だな、俺も今から行こうと思ってたんだ!」
カイルだ。彼は辺境への派遣など少しも気にしていない様子で、屈託のない笑みを浮かべて隣に並んだ。カイルの他愛のないお喋りに、時折相槌を打ちながら歩く。
やがて辿り着いた兵器庫。カイルが勢いよく扉を開けると、そこには本部ほどではないが、所狭しと魔導兵器やパーツが並ぶ空間が広がっていた。
「あれ?アリアじゃない!なんでここにいるの!?」
聞き覚えのある、明るい声。
「ミナ……!?ミナも、ここに配属されてたんだ」
「やったぁ!また一緒にいられるね!」
再会を喜ぶミナが、アリアに勢いよく抱きつく。カイルともすぐに打ち解け、三人は兵器庫の片隅で束の間の平和を分かち合っていた。
「本当はさ、新入りは本部で基礎を習うはずだったんだけど、人手不足ってことでここに配属されたの。アリアの機体の整備、私がバッチリ仕上げてあげるからね!」
ミナが胸を叩いて笑った、その時だった。
――ヴォォォォォォンッ! ヴォォォォォンッ!
平穏を無残に切り裂く、腹の底まで響くような緊急警報。
兵器庫内の照明が赤く明滅し、整備員たちの叫び声が飛び交う。
「何……!?この警報……!」
アリアの顔から血の気が引く。
辺境。激しくないはずの戦場。
そこに、予測不能の「何か」が近づいていた。




