第三話
基地内の施設を巡りながら、アリアはセラの背中を追っていた。
無機質な廊下に、時折混じる機械油の匂い。やがて視界が開けると、そこには熱気と喧騒に満ちた巨大な空間――食堂が広がっていた。
「ここが食堂。食券を買って、あっちのカウンターで渡すのよ」
「凄く広いですね……。それに、人もたくさん……」
圧倒されるアリアを余所に、セラは手慣れた動作でパネルを操作する。
「サロンには簡易的なキッチンしかないから。自炊ができない連中は、死ぬまでここで飼い慣らされるってわけ」
冗談とも本気ともつかない口調でセラがランチを促す。アリアは迷った末、一番上にあった『本日のB定食』のボタンを押した。
カウンターで食券を渡し、料理が出来上がるのを待つ数分間。
「食事が済んだら、次はメカニック部隊が管理する兵器庫へ行くわ。あそこは精密機器の塊だから、余計なところには触らないように」
「は、はい……。兵器庫には、あの『魔導甲冑』もあるんですよね?」
「そうね。うちの主力兵器よ。……それがどうかした?」
セラの横顔を伺いながら、アリアは兄の顔を思い出しながら、つい口にしていた。
「いえ……その、事故とかあったら怖いなって、少し思っちゃって……」
ピクリ、と。
セラの肩がわずかに跳ねた。
先ほどまで淡々と説明を続けていた彼女の口が、不自然なほど固く結ばれる。
「……そうね。事故は、怖いわね」
低く、地を這うような声。
セラはそれ以上何も言わず、差し出されたトレイをひったくるように受け取ると、足早に席へと向かってしまった。アリアもソッとトレイを受け取ると、小さく肩を落として後に続いた。
重苦しい沈黙が二人の間に流れる。
アリアがぎこちなくフォークを手に取った、その時だった。
「ねぇねぇ、ここ座っていいかな!?どこもいっぱいでさー!」
弾けるような明るい声。
顔を上げると、そこにはアリアと同じくらいの年頃の少女が立っていた。オレンジ色の作業つなぎを腰で結び、顔に少し汚れをつけた少女は、返事も待たずにアリアの隣に滑り込む。
「もしかして新人さん?私も今日からなんだよね!私、ミナ・ロウ!メカニック部隊所属、よろしくね!」
「あ、えっと……。灰翼中隊に配属された、アリア・フィオルです。よ、よろしく……」
嵐のような勢いに目を白黒させるアリア。その隣で、セラが冷めた瞳でミナを眺めた。
「メカニック部隊……。ちょうどいいじゃない」
「え?何がです?」
ミナが首を傾げると、セラは食事の手を止めずに言い放った。
「私はセラ・アルミナ。この子の班の班長よ。今から兵器庫を案内する予定だったんだけど……面倒になったわ。同じ新人同士、あんたが案内してやりなさい」
「えぇっ!?いいんですか、私にそんな大役!」
「いいわよ、誰が案内しても同じなんだから。」
間に挟まれたアリアが「あの、班長……?」とおろおろする間も無く、ミナは「やったぁ、友達できた!」と満面の笑みでアリアの肩を組んでくる。
少しだけ強引な新しい友人の登場に、アリアの緊張は、戸惑いという別の感情に塗り替えられていった。




