第二話
式典を終えた新兵たちで賑わう廊下を、アリアは壁に沿うようにして歩いていた。
右手に握りしめた通告書。そこには配属先として『灰翼中隊』の名が刻まれている。
(……同期の人たちと、うまくやれるかな)
自分でも嫌になるほど、内向的な性格だ。
訓練学校時代も、集団の中で一人孤立することが多かった。戦場では仲間との連携が不可欠だと教官には耳にタコができるほど言われたが、初対面の相手を前にすると、どうしても言葉が喉の奥でつかえてしまう。
指定された部屋の前に立ち、アリアは一度足を止めた。
深呼吸を一つ。肺に冷たい空気を送り込み、緊張を吐き出す。震える指先で、重厚な鉄の扉を三回ノックした。
「ほ、本日より配属されました、アリア・フィオルです。失礼します……っ!」
勢いよく扉を開け、入室する。
そこにいたのは、二人。一人は金髪で大柄な男性。もう一人は、長い茶髪を後ろで一つに結んだ女性だった。
「よぉ、新入り!俺は灰翼中隊第二班班長のユリウス・グランだ。よろしくな!」
大柄な男――ユリウスが、太陽のような明るい笑顔で右手を差し出してきた。
アリアはその圧力に圧倒されながらも、「よろしくお願いします」と、その大きな手を握り返す。
「私はセラ・アルミナ。第三班の班長よ。」
セラと呼ばれた女性は、素っ気なくそう告げると、手元のタブレットに視線を戻した。
その事務的な態度にアリアが身を縮めていると、背後の扉が勢いよく跳ね上がった。
「すんません!遅れましたぁっ!本日配属のカイル・ヴェルナーです!」
肩で息をしながら飛び込んできたのは、一人の少年だった。
切りそろえられた短い黒髪。年はアリアと同じくらいだろうか。その瞳には、遅刻の焦りよりも新しい環境への高揚感が勝っているように見えた。
「よし、これで二人揃ったな」
ユリウスに促され、アリアたちは部屋の奥へと進む。
そこは広大なサロンになっていた。百人近い隊員たちが、資料を読み耽り、あるいは談笑し、思い思いの時間を過ごしている。
「おっ、班長!そいつらが噂の新入りっすか?」
「ああ、今日から俺たちの仲間だ。あまりいじめるなよ」
野次馬のように寄ってくる先輩隊員たちをユリウスが笑って追い払い、アリアとカイルを円卓の席に着かせた。
「ここが灰翼中隊の待機室だ。非番や待機時は基本的にここで過ごすことになる」
「……トレーニングルームやシャワー、レクリエーション施設はあちらよ。自由に使っていいけど、訓練を怠らないこと」
セラが淡々と設備を説明していく。
彼女の話によれば、中隊は三つの班で構成されており、第一班の班長はこの中隊の指揮官である『レオン・ハルバート』が兼任しているのだという。
「あんたたちは、私の第三班に所属してもらうわ。まずは後方支援で戦場の空気に慣れてもらうから」
セラの言葉が終わると同時に、基地内に正午を告げるチャイムが響き渡った。
「お、メシの時間だな!カイル、お前は俺についてこい。アリアは、セラと一緒に食堂へ行って案内を受けてきな」
ユリウスの豪快な号令で、アリアの「兵士としての初日」が本格的に動き出した。




