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第二話

 ルイーズの言葉通り、アリアとカイルはかつて灰翼中隊が使っていた待機室へと呼び出されていた。

 数日ぶりに姿を現したアリアの顔は痛々しいほどに白く、その瞳からは生気が失われている。

 部屋に入ると二人が一番乗りだったらしく、室内はしんと静まり返っていた。

「アリア、とりあえず座らないか?顔色が悪いよ」

 カイルが椅子を引いて促すが、アリアはちからなく首を振った。

「……大丈夫。ありがとう。気を遣わせちゃって、ごめんね」

 しぼり出すようなその声に、カイルはかけるべき言葉を飲み込んだ。

 その時、待機室の重い扉が乱暴に開け放たれた。

 入ってきたのは、見事なまでに頭の禿げ上がった中年の男――入隊式の壇上で、尊大に訓示くんじれていたヘルマン・グレイスナー少佐だ。

「なんだ、まだ他の連中は来ていないのか」

 ヘルマンは二人を一瞥いちべつしたものの、言葉を交わす価値もないと言わんばかりに鼻を鳴らす。彼は勝手にインスタントコーヒーを淹れると、一番上等な椅子に深く腰を下ろした。

 開始五分前。ようやく全員が揃った。

 最後に現れたのは、あの敗走の夜に指揮をっていた長身の男――ダリル・ハーヴィス大尉だった。

「やっと集まったか。締まりのない連中だ」

 ヘルマンは不満げにカップを置くと、剥き出しの頭皮を誇示こじするように胸を張って立ち上がった。

「私が今後、貴様らの指揮をるヘルマン・グレイスナー少佐である!」

「何なのよ、このハゲ!あたしたち、ちゃんと時間は守ったわよ?そんな言い方される筋合いはないわね」

 不快感をあらわに身を乗り出したのは、眼鏡をかけた長い黒髪の女性だ。

「こんなのが隊長だなんて、冗談でしょ。ねえダリル、あんたが代わってやりなさいよ」

 ダリルと呼ばれた男は、苦虫を噛み潰したような顔で溜息を吐いた。

「落ち着け、リサ。一応、こいつは俺たちの上官だ」

 ダリルはアリアたちへと視線を向ける。その眼差しは厳しいが、どこかレオンに似た誠実さをたたえていた。

「新兵もいることだ、自己紹介を。……俺はダリル・ハーヴィス。そして、この口の悪い女が――」

「ちょっと、誰が口の悪い女よ! ……私はリサ・フェルナー。情報管理のスペシャリストよ。アリア・フィオル、貴女とヴァルキュリアについては、根掘ねほ葉掘はほり調べさせてもらうから、よろしくね」

 リサが好戦的こうせんてきな笑みを向けると、隣にいた金髪の美青年が柔らかな、それでいてどこか冷たい微笑を浮かべた。

「アーヴァイン・カスティアと申します。専門は狙撃です。よろしく」

「次は俺か。ヴォルフ・エーデル。戦闘員だ」

 屈強くっきょう巨躯きょくを持つ男が、太い腕を組みながら短く応じる。

「私で最後ね。私はソフィア・シュタイン。あの撤退戦てったいせんでトラックを守ってたんだけど……覚えてる?」

 三つ編みの茶髪を揺らし、ソフィアが優しく微笑みかける。ようやく向けられた純粋な善意に、カイルはわずかに肩の力を抜いた。

「カイル・ヴェルナーです!アリアを、全力でサポートします!よろしくお願いします!」

「アリア・フィオル、です……。よろしくお願いします……」

 蚊の鳴くような声で挨拶するアリア。

 ヘルマン・グレイスナー率いる特務小隊が、ここに産声うぶごえを上げた。だが、それは期待に満ちた門出かどでとは程遠い、火薬の臭いと不信感が渦巻く始まりだった。

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