第五話
魔導素の残滓が灰のように降りしきる中、カイルの機体は残滓に塗れ、物言わぬヴァルキュリアを担いで駐屯地へと転がり込んだ。
「ヴァルキュリアを頼む!俺は……俺はすぐに戦場へ戻らないと……!」
カイルの叫びは、撤退作業の喧騒にかき消される。駆け寄ってきた技術者たちが無残に沈黙した機体を検分していると、奥から長身の男が険しい表情で駆け出してきた。
この基地の指揮を任されている男だ。
「カイル・ヴェルナーだな!その機体を収容コンテナへ叩き込め。全部隊に撤退命令が出た。この基地は、今この瞬間をもって放棄する!」
「撤退……!?馬鹿な、まだ仲間たちが戦ってるんですよ!」
食ってかかるカイルを、指揮官は血走った眼で一喝した。
「灰翼中隊、ユリウス・グラン、セラ・アルミナの両名、戦死を確認。……さらに本部から、別任務についていたレオン・ハルバート中隊長の機体信号が、昨日の未明に消失したと報告があった」
その言葉が、ハッチから這い出そうとしていたアリアの動きを止めた。
「ユリウス班長も、レオン隊長まで……?嘘だ、そんなの……!」
「アリア・フィオル、お前はヴァルキュリアと共に本部へ戻れ。……いいか、これは上層部からの軍令だ」
「嫌です!私、まだ戦えます……私が、戦わなきゃ……!」
震える声で訴えるアリアを、指揮官は底冷えするような視線で射抜いた。
「自惚れるなよ、アリア・フィオル。一年そこらの実戦経験しかない貴様が一人増えたところで、戦況は何一つ変わりはせん。ヴァルキュリアが動かない今、貴様はただのお荷物だ」
男は冷酷に言い捨て、次々と撤退の指示を下していく。
ガルド帝国の『新兵器』と黒曜三刃隊を足止めするため、数機の魔導甲冑が捨て石として後方に展開し、ヴァルキュリアを乗せた輸送トラックが動き出した。
「アリア、行こう……。今は、生き延びるんだ」
カイルは唇を噛み締め、アリアの手を引いて暗いコンテナの中へと乗り込む。
「ヴォルフ・エーデル、ソフィア・シュタイン!お前たちは俺と共にトラックを死守しろ。他の部隊は、コンテナが安全圏へ離脱したのを確認し次第撤退だ!!」
白い魔導甲冑が死神や黒曜三刃隊へ群がり、足止めをする。そして白い魔導甲冑の隙間を抜け出し、しつこく追撃を仕掛けてくる黒い影を、トラックの護衛に回った三機が次々と迎撃していった。
輸送トラックが死線を越え、王国の本部へと滑り込んだとき、アリアたちがいた「灰翼中隊」という居場所は、最前線の灰の中に、跡形もなく消え去っていた。




