第四話
ユリウスは黒曜三刃隊の猛攻を部下たちに預け、墜落したヴァルキュリアの前にその身を投げ出した。
「アリア!動けるかッ!!」
セラの死を悼む暇さえ、戦場は与えてくれない。ユリウスは奥歯を噛み締め、眼前に浮かぶ漆黒の死神――ノクティスを睨みつけた。その機体から溢れ出す金色の魔導素は、触れるものすべてを腐食させるかのような不気味な圧を放っている。
「撤退しろ、アリア!ここでお前とヴァルキュリアを失うわけにはいかねぇ!」
「で、できません……!まだ、私は戦えますッ!!」
アリアは心の奥から放たれた悲鳴のような声で叫びながら、必死に操縦桿を握り直す。セラを奪ったあの影を、見逃すわけにはいかない。だが、立ち上がろうとしたヴァルキュリアを嘲笑うように、死神が金色の刃を振り上げた。
ガギィィンッ!と火花を散らし、ユリウスの魔導盾がその一撃を受け止める。
「いいから行け!これは班長命令だ、アリアッ!!」
ユリウスは盾を押し返し、咆哮と共に魔導剣を叩きつける。
必死で立ち上がろうとするアリアだが、次の瞬間、ヴァルキュリアのコックピットからすべての光が消えた。
魔導核からの供給が完全に途絶し、ヴァルキュリアが沈黙する。
「え……?なんで、動かないの……?私が、戦わなきゃいけないのに……!!」
アリアがどれほど叫ぼうとも、機体は冷たい鋼鉄の塊と化し、ピクリとも動かない。
異変を察知したカイルがヴァルキュリアへ駆け寄り、その鋼鉄の塊を担ぎ上げた。
「カイル!そのままアリアを連れて戦線を離脱しろ!ここは俺が食い止める!」
「了解!班長……すぐに戻ります、必ず!!」
カイルは背後の地獄を振り返らず、アリアを抱えたまま戦場を駆けた。
「カイル、下ろして!私が戦わなきゃいけないのよッ!!」
「馬鹿野郎!そんな状態で何言ってるんだ!今は生き残ることだけ考えろ!」
二人の影が遠ざかる。
ユリウスは、死神の攻撃をなんとかいなしながら、黒曜三刃隊の二機を必死に抑え込んでいる部下たちの姿を視界の端に捉え、小さく呟いた。
「まさか、こんな事になるとはな……。すまねぇ、レオン」
ユリウスは残るすべての出力を魔導剣に注ぎ、死神へと肉薄する。だが、死神の動きはあまりに軽やかだった。
死神の反撃は、重く、鋭い。だがそれ以上に――不快感を感じる……。
(……こいつ、俺の動きを『観察』してやがるのか?)
相手の攻撃には殺意がない。どの程度の出力で装甲が裂けるのか、どの程度の速さなら回避を封じられるのか。まるで新製品の試運転でもしているかのような、無機質な「調整」の感覚。
「舐めやがって……っ!!」
ユリウスは捨て身の連撃を繰り出すが、死神はそれをわずかな機動でいなし、徐々にその出力を引き上げていく。
コンマ数秒ずつ加速する死神。ついにユリウスの反応速度が、絶望的な限界を迎えた。
魔導剣を弾き飛ばされ、無防備に晒された胸部。
死神の金色の刃が、吸い込まれるように魔導核ごとコックピットを両断した。
灰翼中隊の精鋭であった機体は、戦場に巨大な爆炎の花を咲かせ、跡形もなく消滅した。




