第三話
天を裂いて舞い降りた漆黒の影が、金色の魔導素を撒き散らしながら戦場を蹂躙する。
その異質な機動を目にしたマルセラは、忌々しげに顔を歪め、通信機へ吐き捨てた。
「時間切れだ、アイツが来たよ。魔導戦装ノクティス・フレーム……薄気味悪い機体だね」
「人造の人間兵器か……その実力、拝ませてもらおうぜ」
ガルマの皮肉も空虚に響く。ノクティスは、味方機の残骸を飛び越え、立ち塞がる王国の白い機体群を、まるで紙細工のように引き裂きながらヴァルキュリアの前へと躍り出た。
「なっ……私と同じ形……!?」
アリアが驚愕に目を見開く。目の前に現れたのは、ヴァルキュリアと酷似した、けれど禍々しく歪められた「対」の機体だった。
「なんだコイツは……!ガルドの方でも、英雄機なんてもんを作ってやがったのか……!!」
ユリウスとカイルが、動揺を振り払うように一斉に斬りかかる。だが、ノクティスは物理法則を無視したかのような加速で二機の魔導剣をいなし、嘲笑うかのように戦場を跳ねた。
「速すぎる……追えない、捉えられない……!!」
遠方の高台。セラの指先が恐怖で震えている。
魔導狙撃銃のスコープから、黒い影が一瞬で消える。次の瞬間――セラの視界を塞いだのは、現実を否定したくなるほどに巨大な「闇」だった。
セラの思考が停止する。
数百メートルの距離を、瞬き一つの間に踏み越えてきた死神。
絶望を認識する間もなく、ノクティスの金色に輝く魔導剣が、セラの乗る魔導甲冑の魔導核をコックピットごと無慈悲に刺し貫いた。
――ドォォォォォンッ!!
耳を劈く爆鳴。アリアの目の前で、いつも冷静に自分を守ってくれていたセラの機体が、跡形もなく爆散した。
「……あ、あぁ……。セラ、班長……?」
戦場から音が消えた。
最前線の要の一人を失った衝撃。アリアの中で、何かが音を立てて千切れた。
「う、うわあぁぁぁあああ!!」
慟哭と共に、アリアは深紅の翼を全開にして飛び出した。セラの残骸を見下ろすノクティスへ、怒りに身を任せた突撃を仕掛ける。
だが、その激情は戦場の死角を消し去っていた。忘れていたのだ。黒曜三刃隊にも、優秀な狙撃手がいることを。
『左へ避けなさい……』
脳を刺すような鋭い声。
反射的に機体を捩じった直後、ヴァルキュリアの背面に凄まじい衝撃が走った。
リュカの狙撃弾が、飛行ユニットの一部を粉砕したのだ。
「――っ!?」
バランスを失い、制御を失った深紅の翼。
アリアを乗せたヴァルキュリアは、復讐を果たすことすら叶わず、灰のように降り積もる魔導素の残滓の中へと無様に墜落していった。




