第二話
深紅の翼を翻し、アリアは黒曜三刃隊の猛攻を紙一重で回避し続ける。かつて恐怖に震えていた操縦桿は、今や自らの体の一部のように馴染んでいた。
『次は右……それから狙撃が来るわ。いい子ね……その調子よ』
脳裏に響く、冷たくも透き通った女性の声。アリアはその囁きに身を委ね、機械的な最適解で敵を翻弄する。
『もっと敵を落としなさい。そうすれば皆が褒めてくれる。皆が必要としてくれる……』
「……敵を倒して、戦争を終わらせる。もう、お兄ちゃんみたいに誰かを失うのは嫌……!」
アリアはカイルを取り囲んでいた敵機へ銃口を向け、その魔導核を躊躇なく撃ち抜いた。迫りくるマルセラの連撃を最小限の機動でいなし、さらに別の獲物へと狙いを定める。
「アリア、冷静になれ!いつも通り、俺の動きに合わせろ!」
カイルの切迫した通信が、混濁し始めたアリアの意識を現実に引き戻す。
「だ、大丈夫……ありがとう、カイル。……集中するよ」
「そろそろ、こいつらともおさらばしたいんだがな!」
ユリウスが魔導剣を叩きつけ、敵の随伴機を爆砕する。
「真面目にやりなよ、ユリウス!油断した奴から死ぬよ!」
セラの狙撃が、ヴァルキュリアを狙っていた敵機の魔導核を遠距離から射抜く。
「わかってるよ!何年戦場を駆けてると思ってんだ!」
ユリウスがガルマの攻撃を魔導盾で受け止めながら返す。
そしてカイルもまた、三機の黒い機体に囲まれながらも、防御に徹しながら好機を伺っていた。英才教育を受けた帝国兵相手に、一歩も譲らない。
(このまま押し切れる……!)
王国の兵士たちが勝利を予感し、前哨基地の陥落を確信した、その時だった。
帝国の前哨基地から、重低音の噴射音と共に一筋の黒が天を突いた。
漆黒の装甲。背面にはヴァルキュリアと同様の飛行ユニット。
だが、その翼から放たれるのは、血のような紅でも、浄化の白でもない。
――不気味なほどに輝く、金色の魔導素。
空へと舞い上がったその機体の胸部には、世界を拒絶するかのような金色の魔導核が、冷徹な光を放っていた。




