第一話
兵器庫を支配するのは、重苦しい鉄の匂いと、静かな決意だった。
灰翼中隊の面々は、各々の愛機へと乗り込んでいく。アリアもまた、吸い込まれるように『魔導戦装ヴァルキュリア・フレーム』のコックピットへと滑り込んだ。
「ここを落とせば、戦況は一気にこちらへ傾く!野郎ども、気合を入れろ!アルヴェリア王国には俺たち灰翼中隊がいることを帝国に刻み付けてやるんだ!」
魔導通信機から響くユリウスの怒号。敵の前哨基地を必ず落とすという、熱い思いが込められている。
「黒曜三刃隊……出てくるなら来なよ。今度こそ、その腐った魔導核を撃ち抜いてやる……!」
セラの狙撃機が、獲物を睨む猛禽のように戦場へ躍り出る。その視線には、かつてないほど鋭い殺意が宿っていた。
「アリア、行こうぜ!いつも通り、俺が全力で背中を守ってやる!」
カイルの声が、混濁し始めたアリアの意識を繋ぎ止める。一年間の激戦を経て、二人の連携はもはや言葉を必要としない域に達していた。
「……うん。終わらせなきゃ。こんな戦争、私が、全部……」
アリアが呟くと同時に、ヴァルキュリアの背面ユニットが咆哮を上げた。
純白だった翼に、血管のような赤い魔導素のラインが奔る。それは瞬く間に広がり、機体は深紅の翼を広げて大空へと舞い上がった。翼から迸る赤い残滓が、まるで兵士の死を悼む灰のように戦場へと降り注ぐ。
その正面。黒い雲を裂いて、帝国の精鋭――黒曜三刃隊が姿を現した。
「……チッ。またあのクソ兵器か」
漆黒の機体の中で、マルセラが苛立たしげに吐き捨てた。上空から迫る深紅の影。この一年の間、幾度となく自分たちの進撃を阻んできた忌まわしき死の天使。
「おい、マルセラ。例の『アレ』はまだ来ないのか?」
並走するガルマの声が、通信機越しにコックピットへ流れ込む。
「最終調整を終えたら出撃させるってさ。それまで、アレを相手に持ちこたえろって事だ」
散開した王国軍が前哨基地を襲撃する中、深紅の翼を広げたヴァルキュリアが一直線にマルセラ機へと肉薄する。
「僕は狙撃手を探すよ。アレを放置しとくのは、メンタル的に良くないからね」
リュカの狙撃機が姿を消すと同時に、マルセラとガルマは随伴機を引き連れ、ヴァルキュリアへの迎撃体勢をとった。
「あんな人造のバケモノに頼らなくても、俺たちだけで落としてやろうぜ!」
「当たり前だよ!その魔導核ごと貫いて、ただの鉄屑に変えてやる!」
激突。マルセラの魔導剣がヴァルキュリアの魔導盾を叩き、凄まじい火花が散る。
カイルたちが敵の随伴機を引き付ける中、アリアは赤い残光を曳きながら、深紅の刃を振るい始めた。




