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第一話

 喧騒と、重い軍靴の音が入り混じる。

 無機質なコンクリートの廊下を、アリア・フィオルは急ぎ足で歩いていた。

 右から左へ、あるいは背後から。

 同じ方向へ向かう者、任務の打ち合わせに熱を上げる者、冗談を言い合う者――行き交う人々がアリアの肩をかすめていくが、彼女に視線を向ける者はいない。

(今日から……今日からなんだ)

 アリアは、支給されたばかりの硬い軍服の襟元に触れ、小さく息を吐いた。

 長く過酷な訓練期間を終え、彼女は今日、魔導兵部隊へと配属された。まだ「兵士」の肩書きに慣れない新人だが、その胸には今日から始まる生活への期待と、それ以上の緊張が渦巻いている。

 基地の中央ホールへ滑り込むと、そこにはすでに大勢の新兵たちが整列していた。

 アリアは指定された位置に滑り込み、壇上へと視線を向ける。

 そこに立っていたのは、一人の女性だった。

 黒髪を隙なく結い上げ、背筋を氷の柱のように伸ばした姿。その鋭い眼光が会場を見下ろすだけで、騒がしかったホールは一瞬で静まり返る。

「私の名はルイーズ・ハルバード。魔導兵部隊の総括そうかつを任されている者だ」

 マイクを通した声は低く、そして重い。

 魔導兵部隊総大将。王国軍の矛を束ねる頂点の一人だ。

「諸君、まずは研修期間の修了を歓迎しよう。だが、浮かれるのは今日までにしろ。明日から諸君らを待ち受けるのは、泥をすすり、鉄をむような過酷な戦場だ。……仲間と協力し、助け合い、泥濘ぬかるみの中から勝利を掴み取れ。以上だ。健闘を祈る」

 歓迎という言葉とは裏腹に、突き放すような、けれど確かな重みのある言葉。

 ルイーズはそれだけ言い残すと、ひるがえしたマントの音を合図にするかのように、颯爽と舞台袖へと消えていった。

「――以上をもって、総大将の挨拶を終了する!各員、事前に通告された配属先へ直行せよ!」

 ルイーズに代わって壇上に現れた、頭のハゲ上がった高圧的な士官が声を張り上げる。

 その言葉が終わるや否や、ホールの空気は一気に弛緩しかんした。

「おい、どこ配属だった?」

「第ニ大隊。お前は?」

「まじか、俺は後方支援だわ。最前線じゃなくて良かったぜ」

 周囲からは、安堵や不安の入り混じった話し声が聞こえ始める。

 知り合いのいないアリアはその輪に加わることもなく、ただ一枚の通告書を強く握りしめた。

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