第六話
灰翼中隊の待機室には、安物の豆を淹れた、焦げたようなコーヒーの香りが漂っていた。
セラとユリウスは、湯気の消えかけたカップを前に、重苦しい沈黙を共有していた。
「セラ、最近のアリアはどうなんだ? ……隊長からは、相変わらず自室に籠りきりだと聞いてるが」
「……変わらないよ。出撃以外の時間は、外界との接触を拒んでる。ただ、たまに部屋の中から話し声が聞こえてくるから、たぶんあのメカニックの友達と話してるんじゃない?」
セラの言葉に、ユリウスはわずかに安堵の息を漏らした。
「友達と話せてるなら、まだマシか。カイルの奴も最近は戦場でいい動きを見せるようになった。……このまま、アリアを支えながら戦局を押し切れればいいんだがな」
「それは誰だって願ってるよ。……でも、いつまでこんな消耗戦を続けるつもりなんだろうね」
セラが苛立ちを滲ませたその時、待機室の扉が重々しく開いた。
入ってきたのは、どこか影のある疲労を滲ませたレオンだった。
「二人とも、少し話せるか?」
レオンは迷わず二人の席へ歩み寄ると、空いた椅子に腰を下ろした。
「おー、隊長。俺たちも暇を持て余してたところだ。また何か面倒な用件か?」
「悪いが、また別の特務を振られてな。……しばらくの間、灰翼中隊の現場指揮を頼みたい」
その言葉に、ユリウスが露骨に眉をひそめた。
「おいおい、またかよ。最近、あんた自身の任務が多すぎやしねぇか?」
「中隊長。灰翼中隊はあんたの部隊なんだよ。……あんまり留守にされると、下の連中の士気に関わる」
セラの不安げな言葉に、レオンは一瞬だけ苦渋を浮かべ、すぐに「中隊長」の顔で笑ってみせた。
「わかっている。だが、上層部の命令は絶対だ。……次の任地は、最前線の最激戦区だ。俺は遅れて合流することになると思うが、二人とも、決して気を抜くなよ」
いつになく真剣なレオンの眼光に、二人は顔を見合わせると、迷いを断ち切るように強く頷いた。
二人の返答を見届けると、レオンはどこか寂しげな笑顔を一度だけ残し、風のように部屋を去っていった。
「また、最前線か。……こうも立て続けに地獄へ放り込まれると、アリアどころか、俺たちまで焼き切れちまうぞ」
ユリウスが頭を抱え、冷え切ったコーヒーを喉に流し込む。
「上の連中に取ってみれば、私たちなんて、単なる『替えのきく駒』でしかないってことだね」
セラの冷ややかな独白に、答える者は誰もいなかった。
静寂の中、コーヒーの苦い香りだけが、泥沼化した現実を嘲笑うかのように漂い続けていた。




