第五話
研究室の奥、厚い防壁の向こう側には、静寂を拒むような機械の駆動音だけが響いていた。
立ち並ぶ巨大な円柱型の水槽。満たされた蛍光緑の液体の中に浮かんでいたのは――「かつて人であったモノ」の成れの果てだ。肉が捩れ、骨が不自然に隆起した異形の残骸。
「……また、とんでもない悪趣味をこじらせたもんだね」
リュカが水槽を埋め尽くす肉塊を見つめ、吐き捨てるように呟いた。
「博士。私たちをこんな死体置き場に呼んで、一体何を見せようってんだい」
先導する初老の男の背中に、マルセラが苛立ちをぶつける。だが、男は恍惚とした笑みを浮かべたまま振り返りもしない。
「これらは単なる礎、名誉ある失敗作に過ぎんよ。……だが、ついに『果実』は実った。ヴァルキュリアの機体構造、そして失踪した前パイロットの機密データ……それら全てを注ぎ込んだ、私の最高傑作だ」
博士が一つの水槽の前で足を止めた。
そこにいたのは、これまでの「肉塊」とは明らかに異なる、美しい輪郭を保った一人の少女だった。
緑の深淵で膝を抱え、胎児のように眠る少女。その胸の中央には、心臓を侵食するように「金色の魔導核」が深く、直接的に埋め込まれていた。
「魔導核の生体直植――。これにより、人為的に平均の十倍を超える魔導素を保持させることに成功したのだ。ヴァルキュリアの戦闘データを移植した専用機とのリンクも完了している。即座に実戦投入が可能だ」
「魔導核を直接……!?正気かよ!」
ガルマが絶句し、一歩後ずさった。
大量の魔導素は精神を摩耗させる。それを人工的に、しかも「10倍」もの負荷を強いるなど、正気の沙汰ではない。
「正気であることなんぞ、勝者の前では些細な問題だ。……お前たち三人には、この娘の『世話』を任せたい。彼女が戦場で盛大に暴れ回れるよう、盤石のサポートをしてやってくれ」
マルセラが、陶酔する博士を射抜くような眼光で睨みつけた。
「……ガキの頃から洗脳紛いの訓練を叩き込まれるのが、この帝国の美徳だと思ってたけどね。ついに人体実験まで始めたのかい。大したもんだよ」
博士はマルセラの皮肉など耳に入らぬ様子で、愛おしげに水槽のガラスを撫でた。
人を人と思わぬ狂気。その身勝手な欲望の産物を前に、帝国の精鋭である「黒曜三刃隊」の顔には、隠しきれない不快感と戦慄が滲み出ていた。




