第四話
ガルド帝国、最前線基地。重苦しい沈黙が漂う作戦会議室で、マルセラは机を叩き、苛立ちを露わにしていた。
純白の魔導戦装――ヴァルキュリア。あの機体が現れてからというもの、帝国の進撃はことごとく阻まれ、戦況は悪化の一途を辿っている。
「ちくしょう!アルヴェリアの連中、何年も前に『遺物』になったはずの機体を引っ張り出してきやがって……!」
「あれは単なる遺物じゃないよ、マルセラ。……おそらく中身は、あの時、辺境で暴走しかけていた機体のパイロットだろうね」
リュカが、そう告げた。あの時、自爆寸前の暴走状態から突如として次元の違う動きを見せた、あの白い機体。
「あの時、多少の無理をしてでも仕留めておくべきだったか……」
ガルマが苦々しく吐き捨てる。レオン・ハルバートの介入が、あと数分遅ければ仕留めきれていただろう。
「ふざけんじゃあないよ!あの時、撤退を判断したのが間違いだったって言いたいのかい!?」
「落ち着けよ、マルセラ。誰もそんなことは言ってないだろ」
激昂するマルセラをガルマがいなし、リュカが言葉を繋ぐ。
「僕だって、頭部の魔導感知器を潰されて引くしかなかったしね。……あの狙撃手、相当な手練れだよ。あの距離で、設置型の魔導盾の隙間から正確に魔導核を狙ってきた」
「ああ、俺たちのスピードについてきたあの機体もな。あの部隊の連中、地味だが確かな実力者が揃ってる」
三人はかつての戦場を反芻し、アルヴェリア王国の兵士たちに警戒を強めていた。ヴァルキュリアという圧倒的な暴力。そしてそれを支える精鋭たち。
「これからどうするか、だね。ヴァルキュリアが戦場を回っている限り、私らは手足をもがれたも同然だ」
マルセラの言葉に、他の二人も考え込むように俯く。三人が行き止まりの議論を続けていた、その時だった。
コツ、コツ、と。
冷たい床を叩く乾いた足音が響き、白衣を纏った一人の初老の男が姿を現した。三人の鋭い視線が男を射抜くが、男は不敵な笑みを浮かべたまま歩みを止めない。
「三人とも、ここにおったか。ちょうど話したい事がある」
「……何の用だい、博士。私たちに、新兵器の実験台にでもなれってのかい?」
「実験台、ではない。お前たちに『朗報』を持ってきたのだよ。……ついに完成した。あの忌々しいヴァルキュリアを、空から引きずり落とす『手段』がな」
男の瞳に、狂気じみた知性の光が宿る。
「ついてきなさい。お前たちには、これから『彼女』の世話を任せたいのだ。……この帝国が手に入れた、最高の『傑作』をな」
男は背を向け、迷いのない足取りで研究室へと向かう。
マルセラたちは顔を見合わせると、得体の知れない期待と不安を胸に、闇の奥へと消えていく白衣を追い始めた。




